事故などで前歯を何かにぶつけてしまい、ご自分の歯を折ってしまうことはありますが、健康な何でもない状態の奥歯が自分の噛む力だけで割れることがあるのでしょうか。

答えはイエスです。

これまで虫歯でもなく、以前に治した既往もない健康な歯がある時を境に急に痛み出した。なので、診てほしいと言って来院された方を結構な数経験してきました。

最近も40代の男性で、同じように昨日まで何でもなかった歯が朝起きた時から噛むととても痛くて、その部分の奥歯ではとても噛むことができない…ということで来院されました。ちょっと見た目だけでは何ともなっていない状態です。

実際の画像はこちら

術前口腔内
術前口腔内

そこで、レントゲンを撮って調べてみました。

レントゲン
レントゲン

すると、奥から2番目の第2大臼歯の根元に黒い影が認められました。これは明らかに根管に炎症が起きている状態を示しています。

真っ二つに入っていた「ひび」

改めて口腔内の当該歯牙を観察しますと、咬合面の上から、溝に沿って見事にひびが入っているのがわかりました。

真二つにひびが入っているようで、こうなるともうお手上げです。なので、「歯が割れているので抜歯しましょう」ということで、抜歯したのが次の写真です。

抜歯歯牙
抜歯歯牙

なぜ硬い歯が割れてしまったのか?

歯はおせんべいなどの硬いものを噛んでもそう簡単には割れないものなのですが、実は咀嚼器官というものは物をかんでいるとき以外にも、夜間などはとてつもなく強い力で歯ぎしりや食いしばりなどをすることがよくあります。

別のコラムの欄でも書いた覚えがありますが、咀嚼器官は情動の発現の場として進化の過程で発達してきた部分でもあります。

ストレスマネジメントの場として歯が使われている

結果的に夜間の強いストレスマネジメントの場として毎晩のように強い力にさらされ続けてきますと、やがて歯にマイクロクラックと呼ばれる微細なひびが入り始め、オーバーロードの最終局面でついには割れてしまう、ことがよく起こるわけです。

何でもない自分の歯が割れてきた場合それは誰のせいかとなりますと、ご自分のせい、あるいは前記の通りストレス下に置かれているせいということになります。

このような強い力にさらされて続けている状況下で、治療により入っているセラミックなどの素材のかぶせもが割れた場合、入れた先生の責任?ということになるのでしょうか。

セラミックは審美的にも見た目と変わらないくらいきれいに修復することができる自費の歯科素材の一つですが、こういった想定外の咬合力という局面においてはとてもリスキーな素材でもあります。

何度も割れてしまうケースでは素材の再検討が必要

何回も同じ場所のセラミッククラウンが割れてしまうような場合、当院では5年以内は補償期間があるので手数料だけでやり変えは可能ですが、同じ方だけがその場所だけ3回も4回もとなった場合はとても大変でした。

そういった理由で、昔から銀歯は酸化して黒くなるので審美的なセラミックに…としたかったところを、あえてゴールドクラウンという金の素材でかぶせる修復法が奥歯では昔ながらにスタンダードであったことはうなずけます。

いつまでも割れませんし、銀歯のように酸化腐食して黒くならないからです。

とはいえ、ゴールドと言っても所詮歯の色と同じではありませんし、やはり金属であることにかわりはありません。

今ジルコニアが注目を集めているのもその理由

歯と同じように白くて、セラミックのようには欠けないような強い素材でしかも汚れが付きにくいつるつるな新素材として、ジルコニアという人工素材が注目を浴びてきている理由はそこにあります。

奥歯の場合当院ではジルコニアでかぶせものをするようになってからは、それを割ってきた人は1人もいなくなりました。

ひびが入った歯の表面もそういった丈夫な素材全体でカバーしてやることで、溝に沿ってぱっかりと割れてしまう…ことはありえないことです。

よく歯の一部にはめ込むタイプのインレーと呼ばれる金属の詰め物のところから破折して結局かぶせものになってしまうことがありますが、こういったこともはじめからクラウンタイプのかぶせ物にしてガードすることで防げることになります。

歯自体はこれで守られますが咬合力が強すぎる場合、今度は別の方法で咬合力をコントロールするしかないのが現状です。

今後は心療内科などとの連携も行う必要があるかもしれません

昼間の精神的なストレスが夜間のストレスマネジメントの発散の場として口腔内環境を使うというのであれば、こういった過大な咬合力をご自身でコントロールするといった試みは心療内科などの分野と連携していかないとなかなか難しいのかもしれません。今後の研究を大いに期待したいところです。