よく常識を疑え、と言われます。私たちは毎日、口から水分や栄養をとって生きています。歯と口を使う毎日の習慣のなかで、あなたの健康寿命を脅かす様な危険な癖が結構あります。しかも多くの方を毎日臨床で拝見させていただく中で、それが危険だということを知らなかった人があまりにも多いことに気が付きました。

そこで、今回は、特に問題となる5つの危険な習慣を、あなたにも是非知っていただこうと思います。危険な習慣と言っても、「指しゃぶりが出っ歯の原因になる」とか、「甘いもの食べて歯磨きしないで寝ると虫歯になりますよ」とかそういった、誰もが知っているような話ではありません。

 人生100年時代を生きる私たちにとって、これからお伝えする5つの危険な習慣の、もしどれか一つでもあなたに心当たりがあるなら、すぐお役に立てると思いますので、どうぞ最後までご覧いただければと思います。

 

あなたが毎日やっているかもしれない

健康寿命を縮める歯と口からの危険な習慣Top5

5位 朝起きて最初にやる事が歯磨きでない人

なんだ、いまさら歯磨きかよと・・・そんなの毎朝やってるよ・・・という方、違うんです、問題はその順番なんです。

よく、寝起きに朝一杯の水を飲むと健康によいとか言われますよね。 まあ、その通りなんですが、その一杯の水ですら飲む前にとにかく歯磨きを先にしないと危険だということなんです。

朝食の後にどうせまたみがくなら、あとでいいじゃん、と普通なら思いますよね。

人は夜寝てる間、口を少しあけて寝ることも多く、モノを食べないので唾液の循環は減っていて、その間自浄作用は著しく低下しています。だから寝起きの口はなんだか乾いてて多少なりとも口臭がする場合だってありますよね。

実は寝起きすぐの口の中は、寝る前の歯周ポケットに残された一部の歯周病菌が寝ている間にたくさん増殖した状態になっています。

口腔ケアのどんなに熱心な人でも、その人の一日の口の中で細菌量が最も多く汚れている状態なんです。 まして日本人の大人の8割が程度の差こそあれ、歯周病と言われていますから、8割の日本人は、寝る前にたとえ歯磨きしたとしても、口の中には多少なりとも歯周ポケットに残されていた歯周病菌が朝起きた時ピークになっているわけです。 

だから、その人にとって1日のうちで一番歯周病菌が多い口の状態が、寝起きすぐの口の中だということなんですね。         

しかも寝起きすぐの胃腸は活発に働いていません。

飲み込んだ一定量の口腔内細菌が胃を通過して腸に到達するリスクはさらに高いと言えます。そんな状態のまま、もし水を飲んだり、朝食をとると、口の中の浮遊歯周病細菌が毎日 少しずつ 一定量、胃から腸に送り込まれることになります。

口腔内細菌を飲み込んだって、どうせ胃を通過する時に強力な胃酸で破壊されるので、大腸の方まで生菌として届かないから心配ないだろう、とこれまでは考えられてきました。

ところが、最近の研究報告によれば、唾液中の口腔内細菌、とりわけPG菌と言われる、歯周病菌の親のような細菌をはじめとする、何種類かの口腔内細菌には、耐酸性があることがわかりました。胃を通り越して腸管にも定着して腸内細菌叢の構成細菌となることが明らかとなってきたわけです。

 口腔内細菌叢と腸内細菌叢は、多くの種類の細菌たちが、独自の共生関係を築きながらそれぞれの場所で安定しています。

ところが、

すみ分けができて安定している腸内細菌叢に、毎日少しずつではあっても、口の細菌叢からの歯周病菌が、腸内細菌叢に一定数侵入してたまってくると、やがてそれまでの安定していた腸内細菌叢に一定の変化が起こり始めてくる、ということが多数、研究報告されるようになってきたんです。

この細菌叢の構成異常のことをdysbiosisといいます。

例えると、ある国に移民が移住してくる話に似ています。最初のうちはそうでもなかったとしても一定数移民の数が多くなってくると、もともとの文化とは違う別の文化がその近辺にはできるようになってきますよね。その結果、その文化的な背景や習慣や宗教の違いで衝突が起きることもあるでしょう。腸内細菌叢の世界もそんな感じになるんです。

腸内細菌叢は、その人の体の免疫機構をつかさどるうえで、とても重要な場所といわれています。この細菌叢のバランスが変化してdysbiosisがおきるということは、とりもなおさずその人の体質や体調も徐々に変化していくということになるようです。

実はこの腸内細菌叢の研究は最近特に盛んになってきています。どうやら、腸内細菌叢の変化が全身の疾患に、ものすごい影響を与えているということがわかってきたからなんです。

注目すべきは、その腸内細菌叢への歯周病菌の影響が全身の疾患にとても大きくかかわっているという論文が沢山報告されるようになってきたということです。

例えば新潟大学歯学部の山崎和久名誉教授が2023年のマイクロバイオームサイエンスという書籍に載せた研究論文のひとつなんです。「歯周病と全身疾患の相互作用を口・腸連関から考える 」という論文もその中の一つで、その内容はセンセーショナルなものでした。

歯周病が関連する代表的な疾患と腸内細菌が関連する代表的な疾患はオーバーラップしている、と発表されたんです。

具体的にどんな疾患かというと、

脳卒中、脳梗塞、アルツハイマー型認知症、冠動脈心疾患、すい臓がん、慢性腎疾患、炎症性腸疾患、結腸直腸がん、Ⅱ型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝疾患、関節リウマチ、   骨粗しょう症、早産・低体重児出産 などです。

これらの病気は、例えばインフルエンザウィルスのせいで発症するインフルエンザのように感染症の原因がウィルスの仕業だと明確にわかっているような病気ではありませんよね。

例えば、アルツハイマー型認知症ウィルスみたいなのがもしあって、それが体に入ったせいでアルツハイマー型認知症になるとかそういった簡単な因果関係ならわかりやすいのですが、そんなウィルス今のところ発見されていません。本当の原因がまだ解明されていないことはみなさんご存じのとおりです。 

これらの病気は、

いろいろな要因が重なって引き起こされています。そのためにその病気を引き起こした本当の原因が特定されづらく、はっきりとした因果関係が特定されにくかったんです。

今回その要因の一つに口腔内の歯周病菌が挙げられてきたというわけなんですね。

                 

 歯周病菌ががんと関係しているとか、アルツハイマー型認知症と関係しているなんて、突然言われても、普通ならどうして?と思いますよね。まさか、歯周病菌が先にとり挙げた多くの全身疾患と関係していたなんてびっくりだと思いませんか?

かつて100歳で歯が全くなくてもお元気だった金さんや銀さんというお年寄りのおばあさんがいたの覚えていらっしゃる方多いと思います。皮肉なことに、彼女たちには歯周病になる歯がそもそもなかったおかげで、結果的に歯周病菌で腸内細菌叢が荒らされることもなく、きっとそのせいで体全体が良好な状態を保てて、全身疾患もなく長寿を全うできたと考えられるのかもしれません。

歯があることはもちろん大切なのです。しかし残された歯の管理が悪く歯周病になっていれば、そのせいでそこが別のたくさんの病気のリスクの温床にもなってしまっているというのはなんとも皮肉な話ですよね。

8020運動で歯を80歳になっても20本以上残そうという日本歯科医師会の運動はご存じの方も多いと思います。但し、これは健康に管理された歯が20本以上残っているのならよいのですが、もうグラグラで清潔にご自身で管理できないでいる歯周病末期の状態の歯が何本もある方は、特に介護の現場においては、逆に細菌の繁殖の巣にすらなってしまっている危険性があるということなんですね。ですから各自の毎日の口腔ケアへの自覚的な意識が及ばなくなった時点では、むしろその方の健康状態を保つうえでは、終活と同じように考えることが必要です。管理できない歯の抜歯をして清潔な口腔内環境をむしろ整えていくといった、それまでの常識だった歯を残すこととは逆の発想が必要とされる場合もあるということを知っておいてください。

 2019年にアメリカのサイエンスアドバンシスに出されたステファンドミニー博士らによれば、死亡したアルツハイマー病患者54人の脳の96%から歯周病細菌の親玉であるPG菌が生み出すジンジパインという有毒な酵素が見つかったという報告書が出されました。そしてその1年後の2020年には国立長寿医療センターの研究報告で、このジンジパインがアルツハイマー病に関与するということが発表されたんです。なんと歯周病菌の親玉のPG菌は、腸だけでなく、脳の中にまで入り込んで悪さをするという事実、ショッキングな話です。そもそも歯周病でなければ、認知症のリスクがもしかしたら減っていたかもしれないですよね。

重症の歯周病になっている人は朝一番だけでなく、日中も慢性的に口腔内に浮遊歯周病菌が蔓延しているので、それを一定量唾液と一緒に絶えず飲みこんでいることになり、さらにリスキーといえるんです。

人の1日に飲み込む唾液の量は約1.5リットルと言われています。唾液と一緒に飲み込まれた歯周病菌は膨大で、新潟大学の名誉教授の山崎先生は論文の中で、重度の歯周病患者の場合には、PG菌を10の9乗から1010乗のオーダーというとんでもない量を飲み込んでいると発表されています。

結果、徐々にその人の腸内細菌叢を乱れさせ、やがて先に挙げたような多くの全身疾患の引き金を引いてしまうのかもしれません。

ですので、朝目覚めたら一杯の水を飲むその前に、まず必ず歯を磨いて、舌も磨く、ということは、長期的に腸に運ばれてしまう歯周病細菌の数を減らせるので、腸内細菌叢を乱さないようにするためにもマストな習慣といえます。

 また、歯周病菌が腸や脳にまで入り込むのは、口の中の浮遊歯周病細菌を飲み込む消化管性伝播だけでなく、口の中の出血している歯茎の毛細血管からも侵入する血行生伝播の場合もあります。

献血などをされた方ならご存じかもしれません菌血症がそうです。

抜歯や歯の治療で口の中に多少とも血が出る治療をした人は、その時は出血している血管から体をめぐっている血液の中に、一定期間ではありますが、歯周病菌が入りこむリスクが高くなります。そのため菌血症になっているので献血を控えてほしいと言われているのはそのためです。

特に口腔ケアが上手くできていない人ほど、口の中のプラークの量はもともと多く、歯周病菌の量も当然多いので、毛細血管から歯周病菌が侵入するリスクがさらに高いのは当然ですよね。

口腔ケア先進国であるスウェーデンでは、実は歯科衛生士さんが歯石をとる際に歯茎を触る際に出血しやすいので、歯石をとる前に、そこを取りやすくするために、グルタミン酸、ロイシン、リジンのアミノ酸と塩化ナトリウムの混合物である、ぺリソルブという薬剤を歯周ポケットにあらかじめ注入してから、歯石などの沈着物をやわらかくとりやすくして出血しにくくして取り去るなどの工夫のされた歯周病治療の方法が採用されています。これにより菌血症のリスクも減らせるということなんでしょうね。

また、食事前に歯を磨くほうが良い理由は、食後すぐだと、歯の表面が食事中の酸の影響で機械的刺激に弱くなっているので、すぐにごしごしこするブラッシングだと、歯の表面を傷める危険が指摘されています。特に朝は柑橘類などのフルーツやジュースなどをとる方も多いかもしれないので、口の中が酸性になる状況はさらに高いでしょう。歯を傷つけずに磨くには、朝食後本来の歯の表面が唾液で再石灰化し終わる4、50分くらいは必要な時間なんです。 

       

ただ、忙しい朝、そんなに歯ブラシのためだけに待ってられませんよね。ですので、歯のためにも、腸のためにも、朝起きたらまず一番先にすることは歯磨きと舌磨きする習慣にすることをお勧めします。

 

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健康寿命を縮める歯と口からの危険な習慣Top5

   第4位 酸蝕症の恐怖 

口の中のPhが酸性に傾いている時間が長いと、歯は溶け始めるという危険を知っていますか。口の中にある歯は無機質のミネラルで構成されています。

酸性の飲み物や食べ物を口に含んだ後は、そのままで終わりにせず、必ず水やお茶を通すなどして、口の中が酸性に傾いた時間を少なくしてください。もしそういった時間が習慣化してしまうと、酸蝕症といって虫歯でもないのに歯が溶けたり、しみたりする症状が起きはじめます。実際の例でお見せします。

初診で来られた患者さんで、「最近歯が小さくなってきた感じがして、あちこちしみる・・・」ということでお越しになった方がいました。

ご本人、当初どうしてそうなったのかわからず、ただ歯がしみて痛いのでみてほしい…とお越しになったんですね。 

                                      

食生活習慣を伺うとグレープフルーツが大好きで、

毎朝毎晩食べていたそうです。またレモンも好きで、あいている時間によくかじることが多いとのことでした。すっぱいもの好きなんですね、きっと。その方の初診時の口腔内です。

 実はかなり重度の酸蝕症となっていました。歯の表面のエナメル質はすでにかなり溶けて、象牙質が向きだしになっている状態だったんです。

もちろんグレープフルーツやレモンを食べること自体が悪いのではなく、食べた後、酸性に傾いた口腔内のPhをそのままにせず、何らかの形で中和してやる必要があるということなんです。

きっとすっぱいもの好きな方はその余韻を楽しみたいと思う気持ちもあるのでしょうね。余計普通の人より停滞時間は長くなっていると思います。

健康のためによくお酢とかPhが酸性に偏ったドリンク剤などを毎日飲む方も結構いらっしゃるようですが、これらもみな同じ酸蝕症リスクのある習慣と言えます。

普通は食事の後、一定の時間がたてば唾液の緩衝能のおかげで酸性に傾いたPhは元の状態に回復します。ところが、だらだら食べや、デスクワークなどで、ゆっくりと缶コーヒーなどの清涼飲料水を時間かけて飲みながら仕事をする、といった習慣や、先ほどの酸性の強い柑橘類を食べる習慣が多いと、基本的に唾液の緩衝能が働きにくくなり、口の中の酸性状態は長く続くようになるんですね

また、風邪ひいたからと言って、よくのど飴を1日中ずっとなめ続けている方いますが、この場合も同じことが言えます。こういった習慣は酸蝕症になるリスクのかなり高い習慣なので要注意です。

また、別の方の酸蝕症の例ですが、今度は奥歯の写真です。

前の方ほどひどくなくても、エナメル質の表面が何気なく減って、ところどころ陥没しているのおわかりいただけますか?

エナメル質の下の黄色っぽい象牙質が一部むきだした状態となっていますが、これも初期の酸蝕症なんですよ。

これくらい軽度のレベルの酸蝕症は、私が毎日拝見する患者さんの中に、結構ざらにいらっしゃいます。ただ、ご本人はまさかご自分が酸蝕症だったなんて知らないことがほとんどです。

こちらの写真は私の大学の作っている患者さん向けに配布している酸蝕症のパンフレットに載せてある写真から拝借してきていますが、これらの写真は咬耗も重なって、歯の長さまで極端に減ってしまった酸蝕症のようですね。

                                    

 

 

 

こんなにひどくなくても、知覚過敏と言われている方の中にも、実は酸蝕症だったという方は潜在的にかなりいます。虫歯でないのに歯がしみる方は、食生活習慣など思い当たるものがないかを振り返ってみるとよいでしょう。

昔からある有名なステファンカーブという、国家試験にも出題される有名なデータがあります。食品や飲み物が口の中に停滞する時間が長いと、口の中は酸性状態が続き、歯の表面のミネラルが溶け出す、というカーブです。

 

わたしはお酢なんて飲まないし、柑橘類もそんなにしょっちゅう食べないし、だらだらグイもしないから関係ないだろう、という方でも実は要注意な酸蝕症があります。逆流性食道炎です。

夜間寝ている際に胃液がこみあげてくる現象で、隠れ酸蝕症ともいえます。ご自分では気付きにくいのが特徴です。逆流性食道炎の初期症状は軽い胸やけくらいはする程度で、現代人には潜在的に結構多くある隠れ酸蝕症の一つの現象かもしれません。

しっかりと歯磨きしてプラークコントロールもできていて、きちんとした食生活習慣なのに、なぜかいつも虫歯ができやすいといった、タイプの方はこの可能性大です。たまに胸やけがする、胃腸の具合があまり良くない、といった心当たりのある方は、一度お医者さんに自分の胃腸が問題ないか調べてもらう方が良いかもしれません。 

逆流性食道炎は、主に胃腸の弱っている方、コーヒーを多く飲む大人、歳をとって内蔵の筋肉が弱ってきたご年配の方などに起きやすいといわれているようです。            

こうした酸蝕症の人たちへの対処方法は、前回の口臭の動画でもお話ししましたが、500mlのペットボトルに小さじ1杯約5グラムの重曹を溶かして冷蔵庫に作り置きした1%の重曹水で一日3回程度、食事やすっぱいものをとった後などに口をゆすぐだけで絶大な予防効果がります。炭酸水素ナトリウムの水溶液が唾液の緩衝能と同じ働きで酸性に傾いてしまった口腔内をその緩衝作用ですぐに中性付近に戻してくれるんですね。

 

 

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健康寿命を縮める歯と口からの危険な習慣Top5

3位 歯牙接触癖TCHTooth Contacting Habit)        上下の歯を無意識に接触していたり、舌を挟んだり、歯に押し付けている癖のある人は危険だということです

1日のうち、下向いてスマホの画面を見ている時間、あなたの場合トータルでどれくらいありますか?現代人は、きっとかなり多くなってきているのではないでしょうか。(写真)

顔が下向きですと、下顎の位置も自然と上顎の歯とくっつきやすくなります。

ちょっと、今、実際に皆さんご自身でやっていただくとわかりますが、上を向くと口は開き気味になり歯は接触しませんが、下を向くとどうしても口は閉じ気味になり歯と歯は接触しやすくなります。     歩きスマホするくらいですから、ほとんどの人が常にうつむき加減でいる時間は圧倒的に多く、それが現代人のスタイルでもあります。    

まさに、スマホが世の中に浸透したことで起きている現代病の一つそれが、このうつむき症候群で、その副作用として知らずに起きているのが、潜在的な歯牙接触癖なんです。 

東京医科歯科大学第1口腔外科の顎関節治療部の木野孔司先生らのグループはこの歯牙接触癖の事をTCHという言葉として過去に発表されました。TCHとはTooth Contacting Habitの略字です。その研究論文では、TCHを顎関節症の疼痛症状に影響を与える寄与因子として取り上げています。

TCHは噛みしめているという自覚が本人にはない場合が多いのが特徴です。TCHがあると、少しでも歯と歯が接していることで、知らず知らずのうちに咀嚼筋が活動状態となってしまっているというわけなんです。

ナポリ大学の2010年の研究でも、持続して歯を接触させる習癖が顎顔面痛や顎関節症のリスクファクターにもなると報告されているようです。

TCH以外にも、舌の側面に歯の圧痕がついている人スキャロップ舌と呼んでいますが、あるいは、頬粘膜のほうにスジになっている跡がついている人は同様に要注意です。日常的に舌に歯を強く押し当てたり、噛みしめて頬粘膜に力を入れすぎている癖があるからできるんです。

こうした癖で、知らないうちに口腔周囲筋、咀嚼筋の疲労が少しずつ起きて、その反動で咀嚼筋自体も疲れて痛くなったり、夜間のブラキシズムと呼ばれる歯ぎしり食いしばりが増したり、顎が痛くなる顎関節症になる危険も多くなるということなんです。

また特定の歯だけ強く接している時間が長いと、その歯自体も疲労してくるので、歯が知覚過敏になったり、歯の位置がずれてきたりすることもあるので要注意です。

偏った歯軋りが高じて、前歯が前にずれてきた人もいるくらいですから馬鹿になりませんよ。

歯と歯が接触している力の影響が自覚しにくいのは、本人にとってそれが普段は弱い力で起きていて、しかも力は目で見えないせいで自覚されていないという点です。人の生活習慣や無意識での行動というのは、よほど自分で自覚して気づかないかぎり変えるのが難しい習慣のようです。

対策としては、下向きの生活習慣を改め、なるべく自覚して、デスクワークなどを20分くらいしたら、意識してたまに首を回したり、空を見上げて舌を回して動かす、などをして、口腔周囲筋の緊張をとるように心がけましょう。

本当はスマホ見る時は上向いてみる方がいいんですが変な人だと思われるので無理ですよね・・

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健康寿命を縮める歯と口からの危険な習慣Top5

2位 口呼吸

鼻呼吸でなく、口からの呼吸ばかりだと、以前の動画でもお話ししたように、鼻のフィルターを通さないので空中のウイルスや細菌がダイレクトに気道から肺へ入る頻度が増します。その結果病気に感染しやすくなり、自己免疫力も弱くなり、風邪もひきやすい体質となります。(写真)

また、口呼吸で口が乾燥しがちになるので唾液の自浄作用が減り虫歯や歯周病がすすむ原因にもなります。

子供のころからぽかん口になっていると、集中力に欠け、歯並びへの影響も出てきます。小児期の慢性的な口呼吸は顎顔面形態の成長に悪影響を与え、歯並びを悪くして、かみ合わせに異常をもたらす可能性が多数指摘されています。

ヒトは11-12歳くらいまでに顎顔面形態の約90%が完成すると言われているので、小児期のぽかん口をさせない習慣は特に重要です。この時期に鼻の通りが悪い原因となるアレルギー性鼻炎などの疾患があると、それが慢性的な口呼吸となって、顎顔面形態の正常な発育に支障をきたします

そして将来的に大人となった際に閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因となる可能性もあるという報告が、2023年の日本小児呼吸器学会と日本小児耳鼻咽喉科学会の合同のシンポジウムで発表されていました。

この動画をご覧いただいている方の中で、もしお子さんがいらっしゃるなら、アレルギー性鼻炎やアデノイド増殖症などによる鼻呼吸障害などで、子供がぽかん口になっていないかどうか注意深く観察してあげてください。口を閉じて鼻で呼吸するように指示しても、ぽかん口が治らない場合には、放置せずにお医者さんに相談して早めの対策を打つことをお勧めいたします。

まずご自宅でできる方法としては、鼻の通りをよくする鼻うがいなどは効果的ですよね。ドラッグストアにも鼻うがいキットは売っています。また夜寝る前に口にテープをはって強制的に鼻呼吸にさせるという方法もあります。鼻呼吸を促す口に貼るテープもドラッグストアで売っています。

かみ合わせの悪い歯並びだと歳をとってから歯の本数や寿命にまで影響する可能性も指摘されています。

8020達成者の口腔内模型 および頭部X線規格写真分析結果 について 」という2001年に出された東京歯科大学歯科矯正学教室 と千葉市歯科医師会の共同調査統計報告には興味深いものがあります。

80歳になっても歯が25本以上残っていてお元気な方のかみ合わせの状態がどうであったのかを調べたものです。

その結果が、全員 反対咬合とオープンバイトの人はゼロだったということなんです。つまり8020達成者には、一般的な不正咬合と呼ばれている(受け口や開咬)の発生率が低いことが分かりました。

要は、顎顔面骨格のかみあわせは、若いうちに整えておく方が、咬合のバランスをとるうえで有利で、長生きするためにも断然有利だということなんです。

 

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健康寿命を縮める歯と口からの危険な習慣Top5

1位 1年以上歯科検診や、歯のクリーニングをしたことがない人

時間がないし、面倒だし、何の症状もないからと言って、ご自分の口の中を人の目でどれくらい慢性的に汚れているとことがあるか確認してもらったことのない人です。

以前の歯周病の動画でもお話ししましたが、毎日歯磨きしていても磨き残しのある、古いプラークの部分が沢山ある歯のどこかの場所に1本や2本はどなたにもあります。

どこがうまく磨けていないかを検診で確認して指摘してもらう事で、磨けていない場所がわかり、そこを気を付けて磨けば、毒性の高まっている古いプラークが口の中には増えることはありません。

検診に行かなくても、最低半年から1年に1回くらい定期的に歯のクリーニングされているなら、歯科衛生士さんが必ず教えてくれますし、歯石や歯周ポケットの下の古いプラークはその時に当然とってもらえます。

歯周病は沈黙の病と言われています。

つまり、歯茎から血が出るとか、歯がぐらつくとかの症状が出た後では既に歯周病のステージが上がってしまっている状態で、ステージが上がると歯周病の完治が望めなくなります。そうなると、半年から1年ごとのメンテナンスクリーニングの来院くらいではすまなくなり、もっと頻繁に毎月歯周病が悪化しないように管理してもらわない限り、どんどん歯周病は悪化していくことになります。

歯周病治療でお越しになった方の中には、どうして歯周病になったのかということは知ろうともせずに、とにかくそのぐらつく歯だけ早く何とかならないかと言って口を開けてユニットに座る方がいらっしゃいますが、それはもう無理なんです。

ダメになったらそこだけ治せばいいと思っているのでしょうが、どうしてダメになったのか本当の理由を知って自覚して、地道に対策しない限り、必ず別の場所もだめになるので永久に治りません。       

そういった習慣を繰り返して、やがて歳とともにどんどん歯が減っていく人が後を絶ちません。

実は、あって当然と思っているものほど、それがいざ無くなり、減ってきた時の喪失感は大きいということが実際に現実化しないと理解されにくいからなのでしょう。

自分の両親や、友達、あるいはきれいな水や空気と同じです。

会えなくなって初めてそのありがたみがわかるようになりますよね。   

ハーバード大学のLo博士らの2020年に出した論文によれば、2つのコホート研究で歯周病歴がある人は、食道がんのリスクが43%上昇し、歯の欠損がない人に比べて、歯を2本以上欠損している人では食道がんのリスクが42%も上昇することを報告しています。この研究の対象者は1988年から2016年までの女性約10万人、男性5万人の合計約15万人からのデータということになりますからかなり信用できるものです。

こうした歯周病とがんが関係しているといった報告書はその中のほんの一例にすぎませんが、医科からの報告はたくさん報告されてきています。

歯科検診で自分の歯のプラークの磨き残しを指摘してもらって毒性の高い磨き残しの古いプラークをなくせば、歯周病にならずに結果的に多くの別の病気のリスクも同時に減らせます。

つまり口腔ケアは、一番簡単でお金のかからない効果の高い健康予防習慣ということになります。

一般的にスウェーデンやフィンランドがなぜ口腔ケア先進国と言われているか・・・それは国民の歯科口腔ケアが保険に取り込まれているからです。歯周病予防のための歯のクリーニングでがんや認知症になるリスクまで減らせるなら、皆さんにとってその恩恵は計り知れないものですよね。

病気になってからお金や時間を使って治す日本の疾病保険主体の健康保険制度ではなく、本来は予防に使う健康保険制度であってほしいものですよね。

但しここまで挙げてきた5つの危険な習慣の動画をご覧いただいたあなたなら、もう大丈夫です。 すぐに実践できますし、お金もかかりません。

以上5つの危険な習慣いかがだったでしょうか。

1、2回なら問題なくても、習慣化して毎日のように続くと、長期的にはものすごいことになる歯と口からの危険な5つの習慣についてあなたはご理解いただけましたでしょうか?

最後にもう1回おさらいしますと、

第5位 朝起きた時に最初にするのが歯磨きでない人

第4位 酸蝕症の恐怖

第3位 歯牙接触癖TCH

第2位 口呼吸

第1位 1年以上歯の検診やクリーニングを受けたことがない人

 

いかがだったでしょうか。その習慣を変えられるか変えられないかそれはあなた次第です。

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