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今回は、皆さんからよくいただく歯科治療の疑問を解説していきます。

あなたはこれまでに歯の事で、歯科医院に行って、担当の先生から治療の説明を受けられた後、本当にそれでよいのか迷われたことありますか?

こうすると良いですよ、と言われたけど、もっと別の方法や、やり方はないのかな?とか

今痛みはなく特に困ってないので、少しほっといてもいいのかな、などいろいろと迷われることがあるかもしれませんよね。

 

家に帰った後もそれでいいのか気になり、現在は情報にあふれていますから、ググったりして別の方の意見を再度確認される方も、結構いらっしゃるようです。

一度別のところですでにご説明を受けられ、ご自分でどれだけ調べたとしても、その治療方針で本当にいいのか、再度確認するために、わざわざ遠いところからセカンドオピニョンを求めてお越しになる方まで多くなってきました。

そこで、今回からは、皆様から日々よくいただく数々の歯科に関する素朴なご質問の中で、比較的頻度の多いと思われるものから順に、何回かに分けて、その疑問点やご質問に答えしていきます。

歯科の日常での疑問はその方その方によって多岐にわたりますが、当院で良く行っているご説明の一部を、これまでの33年以上の臨床経験とあわせて余すところなくお伝えさせていただきたいと思います。ケースによっては、世界中のどの歯科の専門家でも共通した答えになりそうな内容から、これはケースバイケースで、専門家によって意見が微妙にわかれそうだなといった内容までさまざまだと思います。

とはいへ、あなたがどんなに色々な情報を得たとしても、やはり最後はご自分で決めなくてはなりません。

その時、あなたに一番大切にしていただきたいことは、あなたご自身でなぜそうなんだろうと、先生に言われたことやご自身で得た情報をいったん立ち止まって考える習慣をもって、主体的にご自分の口腔内の事を考えていただきたいといことにつきるんです。

もしご自分にも当てはまるケースがある場合、それをあらかじめ知っておいていただくことで、あなたが歯医者さんに行かれた時の補助的な知識として、きっとお役に立てると思いますので、よろしければ最後までご覧いただければと思います。

 

まず一つ目のテーマです

1.その親知らずは抜くべきか否か

親知らずと言われる歯は、前から数えて8番目の一番奥に生えてくる歯の事で、正式には第3大臼歯と呼ばれている歯です。

どなたにも生えてくるとは限らない歯で、もともと生えてこない方もいますし、上だけはえている人や、左側だけはえている人などさまざまです。親知らずという名のごとく、大人になって忘れたころに、少しずつ出てくる場合もあります。

一番奥の歯なので、なかなかご自分で見えにくい部分ですから状況がどうなっているのか判断しにくい場所ですよね。

この写真の方のように上下左右すべての親知らずが基本的にしっかり、全体の歯列の中にきれいに納まってはえていて、無理なく自然な位置で上下噛みあっている状態なら、もちろん何も問題はありません。

 

でもこういったラッキーな方は、現代人ではかなり少ないんです。

多くの方は、下にお示しした下顎の親知らずのはえているイラストに示すように、斜めってはえていたり、中途半端に一部が出た状態だったりと、いろいろなバリエーションの位置やはえ方をしている場合がとても多いんですね。

 

この状態の親知らずは、いずれも残しておくとやがていろいろなトラブルの原因を引き起こすことが圧倒的に多いんです。そして、結果的に大抵は抜かれることになります。

また、上とか下だけの片方に親知らずがあり、噛みあう反対側の向かい合っている方には親知らずが、もともとないような場合も、抜いた方が良い場合が多いんです。

その理由は向かい合っている歯がなく、孤立した親知らずの場合、歯同士が噛みあっていないので、食事する際の歯同志がぶつかることで自然に起きている自浄作用が働かず、大抵はプラークまみれになってしまいます。それに加えて歯ブラシが届きにくい場所なため、めちゃくちゃ汚れっぱなしで孤立放置されている親知らずとなっていることが多いのが現状だからなんです。

当然の結果かもしれませんが、そういった親知らずはやがて虫歯になり、ほとんどは崩れて痛くなってから仕方なく抜きに来られる方がかなりいらっしゃいます。

一般的に、ちゃんと歯列に並んでいなくて、上下噛みあっていない親知らずに関しては極力若いうちに抜いたほうが良い理由は次の2つです。

一つ目の大きな理由は

とにかくみがきにくい場所が構造的にできてしまっていて、そこが慢性的なプラークの停滞場所となってしまうからです。

もちろんそれが口臭の原因ともなりますし、結局は虫歯になりやすく歯肉の炎症も起きやすくなるからです。この場合は、基本的に抜く以外の解決策はありえません。

実際とても多い具体的な臨床例でご説明しましょう。

このレントゲン写真の患者さんのケースでは、ご自分では最初どこかわからないけど下の奥歯がしみてしょうがないという事で当院にお越しいただいた方でした。

ただ口の中を見ても、下の奥歯に銀歯が入っている歯が2本あるのが見えるのに加えてその後ろの部分に親知らずの頭の一部分が上から少し見えるだけでした。

つまりどこに虫歯があるのかなんて見た目だけでは全くわかりませんでした。

そこで、レントゲンを撮ってみると、真横に向いた親知らずがあり、なんと手前の銀歯の入っている第2大臼歯の隣り合っている側面の部分から虫歯でやられているのが確認されたんです。ここでちょっとだけレントゲンの見方をご説明しておきます。レントゲン上では本来硬い組織は白っぽく見えます。一番白く見えているのは銀歯が入っている銀歯のかぶせもの部分があるのがわかりますよね。その次に白っぽく見える部分は硬いエナメル質の部分です。

 

ところがこのレントゲン写真からは、本来エナメル質のはずの白い部分が黒くなってしまっているのがお分かりいただけますでしょうか?

ここの部分が、とりもなおさず虫歯が歯の横にできて、エナメル質の下の内部の象牙質にまで大きく虫歯が進んでその下の神経の近くまで浸食されてしまっているのがわかります。

歯は一番外側がエナメル質で硬く、その下の象牙質はそれほど硬くない性質のために、虫歯が象牙質の部分で一気に大きく進みやすいんです。

結果的に外側のエナメル質は、卵のから状態で残っていて外側からは穴が見えずらく、象牙質では思ったより中空で大きくぽっかりと虫歯が進んでしまっていた、というのがこのレントゲンからわかることなんです。

 

この例のように横に向いた親知らずと第2大臼歯の境目は、当然ながら歯ブラシの毛先は入らないので一生懸命みがいたとしても絶対にプラークは取れません。

そのために、そこだけ慢性的なプラークがたまり限局性の歯肉炎状態となりやすく、汚れが進んで嫌気性細菌の住みかとなりプラークの細菌叢は変化して毒性が高まり、口臭の原因ともなりやすく、やがて勃発すると腫れてくることもあるんです。

 

このレントゲンの方は、結局写真のように第2大臼歯の虫歯を削って取り除かざるを得ない状態で結局神経の治療もすることになってしまいました。

後ろの斜めに生えている親知らずはこの後当然ながら抜歯されました。

親知らずは、腫れて痛むと、虫歯でなければ、智歯周囲炎という病名がつけられます。

もし歯自体が虫歯になっていなければ、基本的には口腔内を清潔にして周りのプラークをしっかり取り除き、抗生物質を飲めば一時的に腫れや痛みは治ります。

それでも磨きにくい状態は残ったままなので、大抵忘れたころにまた何度か腫れる、ということを繰り返します。その結果、最終的には抜歯されることがほとんどです。

 

よく妊婦さんが、臨月近くなったころ、親知らずが腫れて痛くなってしまってお越しになることがあります。この場合、妊娠中で胎児への影響を考えて抗生剤等の薬剤はなるべく避けたいので、薬で抑えるといった対応ができないんですね。

妊娠期間中一応飲んでも心配ないかどうかご自分で判断する参考にしていただけるようにサイトをご紹介しておきますので、気になる方はそちらをご参照ください。愛知県薬剤師会のページにもわかりやすい解説がされていますのでそちらもご紹介しておきます。

腫れたところを消毒して、切開して排膿させたりした後は洗口剤でよく口をゆすぐだけの対応となるので結構厄介です。

そんな状態にならないためには、いずれご出産のご予定のある方、あるいはもしご自分は親知らずを抱えているのがわかっている若い女性の方などは、症状がなく何でもない時にこそ、本当は積極的に抜歯しておかれた方がよいと言えます。

また、腫れている当日に無理に抜歯すると、麻酔がききにくかったり、一時的にはますます腫れることが多いんです。

当日腫れて痛いのでとっとと抜いてください、と言われても、その日すぐには抜歯しないほうがよいのはそのためです。

いったん薬を飲んで腫れを納めていただいてから、症状が全くなくなった別の日に改めて抜きにくるというのが親知らず抜歯の原則です。

実は何を隠そう私自身も歯科大学の学生時代に下顎の横に生えてきた親知らずを抜歯していただいたことがあります。

私の場合は幸いにも虫歯にはなっていなかったのですが、親足らずのせいで前の歯が後ろから強く押されているっていう変な感じが日に日に強くなってくるのが自分でわかり、頭まで痛くなるといった変な現象も出てきたのを今でも覚えています。

私はちょうどその当時大学生だったので、口腔外科を教えて下さっていて腕の確かだと評判の助教授に抜歯していただきました。それでも抜歯後2,3日は腫れました。

まともな方向に生えていない親知らずを抜歯するには、まず歯茎を切って横に寝ている親知らずの頭の部分だけ半分に切断して取り出して、残りの根っこの部分を下顎骨の中からとりやすく2分割にしてぐりぐりやって抜歯されることが多いです。

私の場合、抜かれているときは痛くなかったんですが、術後3,4日してもあまりに腫れが取れないので心配になって、再度その助教にみていただきました。ベテランのえらい先生に抜いていただいたのに腫れて痛いとか言ったら失礼なんだぞ・・・と当時まだ学生の身分だったので、口腔外科の医局の別の先輩に怒られたのを記憶しています。でも痛いものは痛いので、仕方ありませんよね。皆さんも、どんなにえらい先生上手な先生に抜いてもらったからと言っても、腫れる時は腫れ、痛むときはある程度痛みます。

かといって全く何ともなく2,3日で治ってしまう人もたくさんいるのは事実なんです。

抜歯した後腫れなかったから名医だ!とかいうのは半分嘘だと思います。

抜歯後に腫れるか腫れないか、痛みが続くかそうでないかは、抜歯当日に抜かれる側のその方の体調とその部分に炎症があったかないかといった、その方の口腔内状況のほうに大きく左右されるのだ、ということは覚えておかれるといいと思います。

 

親知らずを抜いたほうが良い理由の2つ目は、

親知らずが、その前の歯に対して、奥から前方に押す力が加わって、歯並びや噛み合わせを悪くしてしまう潜在的な原因になっていることがよくあるからということなんです。

 

全ての親知らずがその原因を作り出しているというわけではありませんが、親知らずのせいで歯並びを悪くしていた例として、わかりやすいエピソードで取り上げている矯正の教科書があります。今回はそこからお借りしてご説明させていただきます。

1991年に東京臨床出版から出された矯正の教科書で、神奈川歯科大学の当時は歯科矯正学講座の教授であった佐藤貞雄先生らの書かれた、顎顔面のダイナミックスを考慮した不正咬合治療へのアプローチ という書籍から引用させていただきます。

佐藤教授はこの本の中で、まず歯列不正の大きな原因の一つがポステリアディスクレパンシーであるという概念を取り上げています。

ポステリアディスクレパンシーとは聞きなれない言葉ですよね。

要は歯並びの中でいう奥歯(ポステリア)の領域の混み合った状況が原因となって引き起こされる顎顔面の不調和(デイスクレパンシー)のことを指します。

一般的に人の歯並びを悪くする根本的な原因は、若い時期からの上顎と下顎の一連の歯並びの上下的な歯の位置で構成される咬合平面の角度と高さに大きく左右されるという事がわかっています。

咬合平面というのは、前歯から臼歯までの歯並びを横から見た時にできている一連の平面の事を指します。

この上の歯と下の歯から構成される咬合平面の位置は、萌出してくるそれぞれの場所の歯の方向と歯の出てくる時期によって大きく変化することがわかっています。

上顎の歯槽骨の発育するスピードが、もし遅れて十分でない場合、はえてこようとする奥歯が垂直的により強く下に降りてくる格好となり、奥歯が過剰に押し出されすぎて、調和のとれた上顎の咬合平面の角度が乱れたものとなってしまいます。

 

その結果、成長段階で下顎の咬合平面が上顎の乱れた咬合平面に適応すべく誘導されすぎてしまい、過剰に前方に適応しすぎてしまうと受け口と呼ばれるクラスⅢという反対咬合、過剰に後方にて適応したままだと開口という前歯のすいているかみ合わせの原因を作り出してしまう結果となるとそこでは説明されています。

このように、そもそも元をたどれば最初にあった親知らずの存在が原因の一つだったことになります。書籍の中でとりあげられている実際のエピソードでご紹介させていただきます。

患者さんは当時16歳の男性で開口になっているので何とかしたい、と大学病院に来られた方です。開口というのは、奥歯で噛んでも前歯がすいてしまうかみ合わせの事です。

佐藤教授はこの16歳の少年の開口の原因が、レントゲンの情報から考えて先ほどのポステリアディスクレパンシーの影響と診断されました。

開口の原因であるポステリアディスクレパンシーを引き起こしている原因の一つとして、まだ見えるところまで生えてきていない骨の中に埋まっている親知らずという事を診断しました。そこでまず4本抜くことで、押し出す力として働いている親知らずの萌出しようとする悪い力を取り除いた後に、矯正治療をしましょうという治療方針をたてられました。

 

しかし、当時その学生さんは受験などの時期と重なることと、矯正費用って自費で結構かかるので、費用の工面もしてからということで、矯正治療を開始するのを数年待ってほしいという事になりました。

 

そこで、教授の判断は、せめて学生のこの開口の歯列不正を、これ以上悪化させないためにも、矯正治療開始するのは数年後でも構わないが、せめて4本埋まっている親知らずだけは先に抜いておくようにと、その患者さんに指示されたそうなんです。

その学生さんは、抜歯するだけなら、ということで、とりあえず4本の親知らずの抜歯だけはすると約束して、その治療方針を受け入れました。

そこでひとまず埋伏している親知らずだけ4本を抜歯して、いったんそれで終了しました。

 

注目すべき結果となったのは、この学生の受験が終わってそれから数年たって、いよいよ矯正治療を開始するために再度大学病院に戻ってこられた時にわかりました。

その時の写真がなんと次のようなものだったのです。

先ほどの写真との違い分かりますか?

なんと、この数年の間に、以前開口状態だった不正咬合が、最初の時と比べて自然と前歯が閉じた状態になっていたわけです。

この間、やったことと言えば、4本の埋まっている親知らずを抜いただけなんです。

まだ装置をつけて行う矯正治療などはしていないのに・・・です。

ポステリアディスクレパンシーが開口の原因となっていたことを診断され、親知らずを抜くことで、奥の混み合った力をなくしたことが功を奏したわけなんでしょう。

その結果咬合平面の改善が自然な方向へすすみ、生体が自然なかみ合わせを獲得できるような環境への橋渡しをすることができた結果と言えるわけです。

外に中途半端に顔をだしている親知らずばかりが悪さするのではなく、この学生さんのように完全に骨の中の深いところに埋まってまだ萌出もしていなくても、後ろから押してくる、目に見えぬ力となって咬合平面にそして噛み合わせに悪影響を及ぼしてきていたという事になるのでしょう。

ですので、親知らずがポステリアディスクレパンシーの原因と疑われる場合には抜歯した方が良いという事になります。

よく、歯はなるべく抜くな、と言われます。

私も通常の位置にはえている歯は当然そうであると思いますが、親知らずに関しては、基本的に抜いておいた方が、後々いろいろな問題が起きにくいことの方が多いという考え方には賛成です。

あなたのお口の中にも生えかけている親知らずや、まだ顎の骨の中にうまっている親知らずはあるかもしれません。もしかかりつけの先生にレントゲンから判断してこれは抜いてもらった方が良いと診断された場合には、なるべく早い段階で抜いておかれるほうがよいでしょう。

ご高齢になってからですと、骨との癒着も起こってしまっていることも多く、抜くのが大変になる場合もあるからです。

 

ここで、知っておいていただきたいのは、矯正をする目的でその前処置として抜歯をする場合です。若いお子さんの矯正治療の場合、例えば10代などのお子さんの場合が多いですよね。この親知らずの抜歯は健康保険がきくのか否かという事で、よく議論になります。

15歳から18歳くらいまではグレーゾーンと言えます。

一般的には、その年齢のお子さんの矯正治療をやると決まっていて、その前処置である親知らずの抜歯の場合には、すべて自費扱いとなるのが基本的なルールのようです。その場合、大体1本抜歯するのに2万円前後が相場のようです。

子供ではなく成人以上の方の抜歯に関しては、矯正目的でなければ、基本的には智歯周囲炎という病名をつけられて健康保険で抜歯できます。ですのでそれほど窓口金はかからないでしょう。

なお、下顎の奥深いところに横に眠っている親知らずの抜歯に関しては、下歯槽神経と太い血管が近くに通っていることがあるので、抜く際には注意が必要であるのは事実です。

抜いた後の一時的なしびれ等が出る副作用もあるからです。

あまり深いところにある親知らずの抜歯は、口腔外科の専門医の先生に抜いていただくか大学病院などの口腔外科に紹介状を書いてもらって抜歯してもらう方が安全なこともあるので、ご担当の先生とよくお話しされてから抜歯される方がいいでしょう。

抜いた後、抗生物質と消炎鎮痛薬である痛み止めが状態によって2~7日分は出されます。抜いた日にお酒とか飲んでもいいですかとよく聞かれますが、抗生物質等を飲むのでその間は控えてください。アルコール消毒になりませんか?と聞いてこられた方がいるのですが、全くの冗談ですから抜歯されたら薬飲んでいる間は控えてください。

 

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