歯を失った場合の選択肢の1つが「テレスコープシステム」

虫歯や歯周病で歯を失ってしまった場合、その部分を補うためにする治療法は大きく分けて4通りあります。

  1. ブリッジという残っている両端の歯を柱にし、橋渡しでセメントにより固定してしまう方法(健康保険のものと自費のものとがあります)
  2. 義歯という取り外しのきく人工の歯で周りに残っている歯にワイヤーで引っ掛けてささえる方法(健康保険のものと自費のものとがあります)
  3. 骨に直接人工の歯根を手術で埋めて再生させるインプラントのかぶせ物(自費のみ)
  4. テレスコープ システムによる補綴(自費のみ)

インプラントができない、かつワイヤー義歯を避けたい方に向いています

その中でインプラントは一番違和感が少なく周りの歯に負担をかけないという意味で、患者さんのご希望に沿う場合には最近では最初の選択肢の一つとなってきています。

しかしご高齢の場合や歯が抜かれてしまった部位が歯周病を長く患っていたために骨が吸収して少なくなっているために、インプラントを埋入したいと思ってもその部分の骨が残っていないといった場合には、インプラントでの治療ができない場合も多々あります。

そんな場合でもワイヤーで引っ掛ける義歯では違和感の問題や、ワイヤーが見えると年寄り臭さがあるということで入れたくないという方もかなりいらっしゃいます。

そういった義歯の違和感や審美的な欠点を克服していて、しかも硬いものもしっかりと食べられるタイプの義歯が作れないものかと考えるのは当然でしょう。

それを可能にしたのが、ドイツで開発されたテレスコープ義歯を呼ばれるものです。テレスコープとは昔海賊が使っていたような長い目がねと形が似ていることから名付けられたという経緯があります。

テレスコープ義歯には種類があります

残っている歯を削ってまず内冠と呼ばれるシリンダー状のかぶせものを作り、セメントで固定します。その内冠に精密に勘合する外冠と呼ばれる表面が歯の形をしている補綴物を作ります。

外冠はさしずめ茶筒の内蓋と外蓋のような関係で、基本的にはその間に生じる勘合力によって維持され、もちろん取り外すことができます。

様々な種類がありますが、内冠と外冠の維持の方法による分類では以下のようになります。

コーヌステレスコープ

内冠と外冠の維持を楔(くさび)効果の力だけでするコーヌステレスコープ。全ての歯に内外冠の維持力がかるために歯周病の歯牙には使えない。維持力が強すぎるためにコントロールが難しい。(当院では現在取り扱っておりません。)

特徴

コーヌステレスコープ義歯はドイツのケルバー博士が考案し、最初に登場したものですが、基本的に支えとなる歯が歯周病に罹患している場合には禁忌です。

外すときにかなり強い力がかかる。なので、歯周病などで弱っている歯には耐えられません。もともと歯を失っている口腔内の方は残っている歯はすでに歯周病などに罹患していて弱っていてぐらぐらしている場合が多いのが現状ですが、過去にその禁忌を破ってしまう先生がコーヌステレスコープを入れてしまうというケースが臨床上多発しました。

早期に支えとなる歯牙がその勘合力に耐えられなくて抜歯というトラブルにつながり、現在では下火となってほとんど使われなくなりました。

もともと楔の効果で内外冠の立ち上がりの角度6度が最適とされていましたが実際維持力の調整も難しく、長期的な使用による内外冠の摩滅で維持がゆるくなってしまった場合のリカバリーが難しいといった欠点もありました。

リーゲルテレスコープ

内冠と外冠の維持を閂(かんぬき)だけでするリーゲルテレスコープ。着脱時に歯牙にストレスがかからないので支台歯以外の歯が歯周病でも使えるが、もし維持となる歯が抜歯されてしまうと突然使えなくなります。

特徴

リーゲルテレスコープ義歯というのは内冠と外冠の勘合力は全くなく、着脱時に力は一切かかりません。そのかわり維持として使う歯に、閂のような細工を施して、外す時にはその閂であるアタッチメントを外して使うという義歯です。

維持装置としてボタンを押して外すタイプや、スライドさせて外すタイプなど、様々な種類があります。

もともとドイツのお国柄のせいかかなり精密巧緻に作られていますが、万が一支えとなる歯が抜歯されてしまった場合、維持することが一気にできなくなるという欠点があるのと、この技工物を作ることができる技工士さんがかなり少ないことから現在やはり下火となっています。

またご高齢で手先の不自由な方には取り外せないことがあります。ただし一部の根強いファンがいるのも事実です。

実際の画像

回転リーゲルテレスコープ(当院では現在取り扱っておりません。)

回転リーゲルテレスコープ 内外冠
回転リーゲルテレスコープ 内外冠
回転リーゲルテレスコープ 着脱時
回転リーゲルテレスコープ 着脱時

旋回リーゲルテレスコープ(当院では現在取り扱っておりません。)

旋回リーゲルテレスコープ 表
旋回リーゲルテレスコープ 表
旋回リーゲルテレスコープ 裏
旋回リーゲルテレスコープ 裏

 

キースライドアタッチメントテレスコープ

キースライドアタッチメントテレスコープ
キースライドアタッチメントテレスコープ
キースライドアタッチメントテレスコープ 口腔内
キースライドアタッチメントテレスコープ 口腔内

レジリエンツテレスコープ

特徴

内冠と外冠の維持をメニスカスの力(表面張力)だけでするレジリエンツテレスコープ。唾液のない状態下(水分のない模型上)では内外冠の維持はゼロで、ゆるい。歯周病の歯でも基本的には使えて、抜歯されてもその部分を埋めてしまうだけで使い続けられる。着脱時に歯牙にストレスはかからない。

レジリエンツテレスコープはその方その方に合った、歯の歯周病かそうでないかといった状態と残っている本数、欠損の部位などによって多くのバリエーションの設計が考えられることになります。

中にはすでに歯が一本もないのでせめてしっかりとした支えとして新たにインプラントを数本欠損部位に埋入手術し、その部分にロケータアタッチメントやマグネットを付けるといった場合もあります。

インプラントは本来上部補綴物は固定式で使うものなのですが、このように着脱可能な義歯の維持力のために使われるということもあります。

実際の画像

  • エレクトロフォーミングテレスコープ(ガルバノテレスコープ,AGCテレスコープ)
    エレクトロフォーミングテレスコープ 表
    エレクトロフォーミングテレスコープ 表

    エレクトロフォーミングテレスコープ 裏
    エレクトロフォーミングテレスコープ 裏

  • ピーク(PEEK)材テレスコープ
    ピーク材によるリーゲルテレスコープ 外冠 表
    ピーク(PEEK)材によるテレスコープ 外冠 表
    ピーク材によるリーゲルテレスコープ 外冠 裏
    ピーク(PEEK)材によるテレスコープ 外冠 裏

    ピーク材によるリーゲルテレスコープ 内冠
    ピーク(PEEK)材によるテレスコープ 内冠

  • 元祖レジリエンツテレスコープ 少数歯の場合の残根上義歯の残根に内冠がかぶせてあるタイプ。外冠の内側には24金蒸着やPEEK材のような、細やかに緊密にするための処理は行いません。

内外冠の被膜層が緊密になるように作ることでメニスカスの力を生み出すが、エレクトロフォーミングテレスコープが内外冠を24金の蒸着技術によって被膜層を作るのに対し、ピーク材テレスコープではピーク(PEEK)材という特殊樹脂で被膜層を作る。

長期使用で表面が摩滅してメニスカスの力が働きにくくなってきた場合、エレクトロフォーミングテレスコープではリカバリーができないのに対し、ピーク材は後で出てくるソフトアタッチメントテレスコープ同様に張替えでリカバリーができるという点が大きなアドバンテージである。

磁性アタッチメントテレスコープ

内冠と外冠の維持をマグネットの磁力だけでする磁性アタッチメントテレスコープ。維持歯が抜歯されてしまうとゆるゆるで突然維持できなくなる。

どの歯にマグネットを付けるか考える必要がある。使い勝手はかなり良いが、頭部のMRIなどをとる際に磁力低下の原因になったりMRIの画像を荒らす。なので、 少数歯残存の場合に限った症例で現在でも使われている。 内冠の磁石をねじ込み式にしてMRI撮影時に一時的に取り外せるなどの改良がされているが、いちいち取り外すのが面倒。

マグネットアタッチメントリーゲルテレスコープ 外冠 表
マグネットアタッチメントテレスコープ 外冠 表
マグネットアタッチメントリーゲルテレスコープ 外冠 裏
マグネットアタッチメントテレスコープ 外冠 裏
マグネットアタッチメントリーゲルテレスコープ 内冠
マグネットアタッチメントテレスコープ 内冠

ソフトアタッチメントテレスコープ

内冠と外冠の維持を特殊樹脂の力だけでするソフトアタッチメントテレスコープ。内冠にディンプルという小さい穴の溝がほってあり、外冠についているソフトアタッチメントがここに勘合することで維持力が発生するため、着脱時の内冠へかかる力が均一でないのとソフトアタッチメントの凹凸関係を乗り越える際の歯牙への負担が少しはかかってしまうのは否めない。

そういった意味ではコーヌステレスコープの時の欠点が残された状態と言え、歯周病の歯には使えない。支台歯が抜歯になっても他の支台歯が残っていれば一応リカバリーは可能。

4年くらいでソフトアタッチメントが劣化してくる。なので、その都度パーツの入れ替えが必要となる。

などがあります。

自費の全顎補綴物の場合こうした点もふまえながら体系立てて作れるといったメリットがありますが、かなり咬合のことを勉強して歯科医師と共に顎の動きなどのデータを読み解ける技工士さんでないとなかなか難しいという現状があります。

まずはご自身の希望などを考えた上で、ご相談頂ければと思います。