歯が溶ける3つの原因とその時の状態と症状について
「最近歯がしみてしょうがないし、何だか奥歯がすべってしっかりと噛みあわなくなってきた感じがするので診てほしい」
と訴える女性がお越しになりました。
ご本人は水を飲んだだけで、ものすごく染みるし、しかもそれがほとんどすべての歯だというのです。
ご自分では虫歯のような穴はあいている気配はないし…と何か悪い病気になってしまったのかといった心配までされているようでした。
穴があいていなくても隣り合っている歯と歯の間が虫歯になってしまっている隠れむし歯はよくある話なので、早速レントゲンもとって口腔内を拝見しました。
虫歯は…無かった…では原因は?
そこでわかったことは…なんとむし歯は1本もなかったのです?!
ではこの女性はなぜお口全体がしみてしょうがないし、しかも噛み合わせまでうまくできない感じがする…と感じているのでしょうか。
答えは、酸蝕症 でした。
みなさんには、あまり聞きなれない言葉だと思いますが、歯が酸に溶けることによって引き起こされた現象なのです。
実は、この方の場合、日常の生活習慣について伺ってみました。
食生活を見ると原因が
なんと、とてもグレープフルーツが大好物で、しかもそれ以外にもお酢がとても好きだそう。
酢の物や酸っぱいジュースなど、それだけでは足らずにお酢やフレンチドレッシングなど、ほとんど食生活の中で、酸性のものをかなり常習的に多く摂取しているということがわかったのです。
歯の噛む面も酸で溶けていて、歯の本来歯の表面の凹凸がなくなってのっぺらぼうのようになっていました。
歯は本来しっかりと上と下の歯が凹凸であってかみ合っているので、そのおかげで食べ物を効率よくすりつぶせて食べられます。
ところが、その女性の歯は、なんと車のタイヤが使い古されて、全く溝がないスリップラインが出てしまった古タイヤのような状態とでも言いましょうか。まさに噛み合わせも滑ってがっちりと上下がかみ合わないくらいにまで溶けてしまっていたのです。
表面自体が全体に溶けてしまっている
虫歯になって黒く穴が開いたからしみる… というのではなく、歯の表面自体が全体溶けて、つるつるに薄くなってしまったのでしみていたわけです。
歯自体はエナメル質という硬い組織が溶けていてその下にある象牙質という少し黄ばんだ組織が露出している状態でした。
まさに風が当たっても染みるくらいの強度の知覚過敏!!!
他の方の酸蝕症写真
別の日に来られた男性の方も酸蝕症で、この方の場合はさらに歯の溶け具合がひどいものでした。
この方は、大のレモン好きで、ほとんど1日中レモンをかじっているとのことでした。
その男性の方の主訴は「歯が痛くてしょうがないので…」ということでご本人もてっきり虫歯が進んだのだと思われていたようでした。
歯が溶ける原因は、それ以外にも3つある
実は歯が溶ける原因には、
1つ目は先にお話しした酸性の強い食品の過剰な摂取がありますが、それ以外にあと2つの原因があります。
2つ目の大きな原因がダラダラ飲み、ダラダラ食い、などに代表される食生活習慣です。
良く見過ごされている具体的な日常行動で、
サラリーマンがチェアーサイドに缶コーヒーやコーラなどの炭酸飲料などを置いてまず一口飲んでは作業をしてまた少し経ってまた一口…といった具合にゆっくりと時間をかけて飲んでいく場合があります。これは絶えずお口の中を酸性状態に保っていますのでゆっくりと歯を溶かし始めるとともに、本当の虫歯の原因にもなります。
3つ目の大きな原因は、中高年以降の方に多い逆流性食道炎の方です。この病気は、胃液の酸が寝ている間などにゆっくりとこみあげてきて、歯のエナメル質をゆっくりと溶かし始めます。
ご高齢の方の場合、歯周病も進んでいる例が多く、最初から歯茎が下がっているところに加えて、そのようなお口の中が酸性の状態となると、まさにダブルパンチです。
酸蝕症はどうすれば防げるのか?
まずは生活習慣の見直しが基本
答えは原因さえわかれば簡単。最初にとり上げた酸っぱいものなどの食に関しての習慣や摂取方法を見直すことです。
とはいへ、コーラなどの炭酸飲料とは違って、お酢や酸性の食品やレモンなどは体にとってはいい物もあるので、基本的にはそれを食べないようにするということではなく、食べた後、しっかりと水やお茶などで口をゆすいでおくといったけじめをつけていただくようにすればよいのです。
酸っぱいのが好きな人にとって、たぶんその余韻を楽しみたいという気持ちもよくわかります。
ただし、その時間は歯の為にもなるべく減らしていただくということになります。そしてダラダラ飲みや、ダラダラ食いなどは極力しないといった習慣も大切です。
胃腸疾患の影響が出ることもある
また、胸やけなどの胃などの症状があるのであれば、内科の先生のところで受診して、逆流性食道炎になっていないかどうかのチェックもしてもらう必要があると思います。
今回の患者さんほどひどくなくても、口腔内を拝見していて、酸蝕症が疑われる方に
「逆流性食道炎と言われたことはありませんか?」といった質問をすると、
「実はそうですが…」とお答えになる方が結構いらっしゃいます。
胃液の酸がこみ上げてきて口の中を酸性状態にしてしまうのです。酸っぱいものは好きでなくても酸蝕症になる危険はあるのです。
逆流性食道炎は放置しても治りませんので、内科の先生にご相談して、適切な投薬なりして対応してもらう必要があります。
すでに溶けてしまった歯はどうすれば?
補綴物による回復か、神経をとる
あまりに溶けてしまった方の場には、クラウンというかぶせ物をして歯の形を回復させる方法が必要となります。
もしあまりしみる現象がひどい場合には先に神経をとってしみないようにしてやる必要も出てきます。その場合にも、なるべく金属は酸に弱いので、メタルフリーな素材であるセラミックやジルコニアなどの化学的な安定性の高いものをお勧めします。自費の素材となるために高額なので健康保険でどうしてもという方の場合、限られた条件とはなりますが、樹脂のかぶせ物も選択肢となるでしょう。
これに関しては、ユーチューブ動画の方でかぶせ物について詳しく説明していますのでそちらをご参照ください。
初期段階であればミネラルパックで回復の可能性も
なお、ごくごく初期の段階の場合には、MIペーストを使って、歯の脱灰してしまった表面をミネラルパックして取り戻すという方法があります。
MIペーストは歯磨き粉ではないのですが、基本的には歯磨きの後に、MIペーストを歯に歯ブラシなどで全体につけた後、10分くらいそのままの状態を保持します。
そして、唾液などはその間吐き出しながら保ちます。牛乳から作られているものなので、牛乳アレルギーの方は使えませんが、基本的に安全な成分です。
もともとだ液の成分には、口腔内の酸性状態を中和する緩衝作用がありますから、唾液を大切にするということも歯の再石灰化に大いに役立ちます。
ですので、食べたらすぐ磨く…のではなく食後30分くらいはしっかりと舌を回して唾液をお口の中に循環させてやることが重要なのです。
…
と、意外と知られていない「酸蝕症」とその背景、原因、そしてそもそも「歯が溶ける」事についての内容でした。皆様の口腔内のお悩み解決に繋がれば幸いです。
西国分寺レガデンタルクリニック院長・歯科医師。歯の治療は、一般的な内科治療などと少し違いがあります。それは「同じ箇所の治療でも、やり方がたくさんある」ということ。例えば、1つの虫歯を治すだけでも「治療方法」「使う材料」「制作方法」がたくさんあります。選択を誤ると、思わぬ苦労や想像していなかった悩みを抱えてしまうことも、少なくありません。
当院では、みなさまに安心と満足の生活を得て頂くことを目標に、皆様の立場に立った治療を心がけています。お気軽にお越し下さい。