動画でも解説しています
最近、東京科学大学(旧東京医科歯科大学)歯学部の研究で、歯周病は治療で症状が落ち着いても『一度トラブルが起きた場所』に履歴が残りやすいことが報告されました。

この話は多くの方に関係する大事な内容です。だからこそ今回は、ぜひ知っておいてほしいポイントとして取り上げます。
目次
決して一部の人だけの問題ではありません。
なぜならこれは、これまで一度でも歯ぐきの出血、腫れ、違和感、強い口臭、あるいは親知らずの周囲の腫れを経験したことがある方、ほぼ全員に関わる話だからです。
日本人の成人の7〜8割が歯周病またはその予備群と言われる今、決して一部の人だけの問題ではありません。
過去に歯ぐきの腫れや違和感が出た場所は、治療やお薬で落ち着いても、歯と歯ぐきの境目に深い歯周ポケットが残っていることがあります。
しかもそこは、汚れがたまりやすいのに、ご本人は気づきにくい“盲点”になりやすい場所です。
だから油断すると、古いプラークを足場にして歯周病の悪玉菌が再び勢いを増しやすくなります。いったん腫れた場所が同じように再発しやすいのは、そこに“再燃しやすい条件”が残ってしまうからです。
この動画では、今まさに症状がない方も含めて、毎日の口腔ケアをどう組み立てれば本当に効果が出やすいのかを、最新の学会報告をもとに、できるだけわかりやすく具体的にお伝えします。
一度かかると、症状が消えても静かに残り続ける?
たとえば、子どものころに水ぼうそうにかかった経験がある方は多いと思います。
水ぼうそうは、一度かかると若くて免疫力が保たれている間は、通常は何度も発症するものではありません。
それは、水ぼうそうが帯状疱疹ウイルスによる病気で、一度かかることで免疫ができ、その免疫が保たれている間は発症しにくいとされているからです。
でも実は、『発症しない=体の中から完全に消えた』ではないんですね。帯状疱疹ウイルスは、その後も体のどこかで静かに潜み続けることがあるといわれています。

私もこの事実を知ったときは驚きました。子どものころにかかったものが、その後も体のどこかに潜んでいるかもしれないなんて、ちょっとぞっとしませんか。
だからこそ現在、65歳以上の方には帯状疱疹ワクチンが推奨されています。年齢とともに免疫力が下がったとき、潜んでいたウイルスが再び活動しないようにするためです。

今回の東京科学大学の報告は、歯周病にもそれと少し似た側面があることを示しています。過去に歯周病が起きた歯周ポケットの深いところには、原因となる細菌が残りやすく、条件がそろうと再び悪さを始める可能性が高まる、という内容です。
さらに厄介なのは、口腔ケアがうまくいかず歯周ポケット内の細菌バランスが一度大きく崩れると、症状が落ち着いたあとも、元の健康な状態に完全に戻しきるのが難しい場合があるという点です。
たとえば、歯周病の治療が終わって、症状もなくなったとします。
その瞬間、多くの方が『やっと終わった』『もう歯医者通いはしばらくいいかな』と感じます。そして、メンテナンスの予約をつい先延ばしにしてしまいます。 
もちろん、ご自身のセルフケアが完璧なら問題は起きにくいかもしれません。でも実際には、多くの方が100点のケアを毎日続けるのは難しいものです。だからこそ、年齢や体調の変化で免疫が落ちたときに、同じ場所が再び悪化しやすくなります。
みがき残しのある歯の表面には、まずプラークやステインが少しずつたまり、それを足場にしてさらに汚れが増えていきます。

そして、その最前線になるのが、歯と歯ぐきの境目にある歯周ポケットです。まして4mm以上のポケットがあれば歯ブラシが届きません。

だからこそ、年齢や体調の変化で免疫が落ちたときに、同じ場所が再び悪化しやすくなります。みがき残しのある歯の表面には、まずプラークやステインが少しずつたまり、それを足場にしてさらに汚れが増えていきます。
そして、その最前線になるのが、歯と歯ぐきの境目にある歯周ポケットなんです。
そのイラストを見てお分かりになると思いますが
最初は酸素のある環境を好む上の方の好気性細菌が中心です。そのまま放置することでプラークが古くなりその下の奥の方には嫌気性細菌が増えていきます。すると細菌の毒性が高まり、いわゆるマイクロバイアルシフトという現象が起こり、歯ぐきの腫れ、出血、強い口臭などが症状となって現れます。多くの方が異変に気づくのは、この段階に入ってからです。
私たちが日常診療でよく拝見するのも、まさにそうした『気づいたときにはすでに進んでいた』というケースが少なくありません。
残念ながら、歯周病には帯状疱疹のようなワクチンが、現時点ではまだ実用化されていません。
だからこそ、毎日の口腔ケアが何より大切です。
また、ご自身で汚れを完全に取り除く自信がない方は、取り残しを防ぐため、3か月に一度を目安にプロによる全歯のメンテナンスクリーニングを受けるとよいでしょう。
自分では見えない歯肉縁下のプラークを一定量以上に増やさなければ、マイクロバイアルシフトは確実に予防できます。
徹底した歯肉縁上のプラークコントロールを行うと、器具の届かないはずの4mm以上の歯周ポケットの歯肉縁下細菌叢まで量が減り、細菌の構成が病原性の低い方向へ移行することが複数の研究で示されています。
(Hellstrom、Ximenez-Fyvieらの一連の報告)
つまり、深い歯周ポケット内の環境を変えて悪玉菌が育ちにくくしているという事なんです。
歯肉縁上を含む全歯の定期的なクリーニングが、戦略的に有効でおすすめなのはこの理由からなんです。

歯周病は、いつ自分で気づけるのか
歯周病は、進行の程度によって大きく4つのステージに分けられます。
初期の段階では、歯ぐきの周りにプラークが停滞し、よく見ると炎症は起きています。ところが、そこに自分で気づける方はとても少ないのが実際です。なぜなら歯周病は、最初からすべての歯に一斉に起こるわけではなく、問題のない場所のほうが圧倒的に多いからです。
つまり、『ちゃんと磨いていない人だけの問題』とは言い切れません。
たとえば、『どこかわからないけれど最近しみる』『食べ物が挟まりやすくなった』『歯ぐきが下がってきた気がする』といって来院される方がいます。
こうした症状の背景には、すでに慢性的な歯周病が進んでいた結果として起きていることが少なくありません。歯みがきをしていても、境目のケアが不十分なまま何年も経つことで、少しずつ歯ぐきがやせ、その結果として初めて自覚症状が出てくるのです。
実は、『よく磨く人』ほど歯ぐきが下がることもある
ここで気をつけたいのが、『しっかり磨く』を『強く磨く』と受け取ってしまうケースです。初期の歯肉炎をきっかけに危機感を持った方ほど、汚れを残したくない気持ちから力が入りすぎて、毛先が寝た状態で歯ぐきや歯の根元をこすり続けてしまうことがあります。その結果、歯ブラシの圧で歯肉が少しずつ退縮し、しみる症状が強くなることがあるのです。
そうした方からは、『今は汚れもついていないのに、なぜしみるんですか?』と聞かれることがあります。答えはシンプルで、磨けているかどうか以前に、“磨き方そのもの”を見直す必要があるからです。
米国のNHANESⅢでは、1mm以上の歯肉退縮を持つ人は30歳以上で半数を超え、65歳以上では9割近くに達すると報告されています。
一生懸命に歯ブラシを使うこと自体は良いことです。ただ、歯ブラシのせいで歯ぐきが下がってしまっては本末転倒です。もし力が入りやすい方は、クラプロクスのようなやわらかめの歯ブラシに替え、ペングリップでやさしくキワを磨くところから始めるのがよいでしょう。
歯みがき粉は、どれくらい出せば正解か
診療室でもよく聞かれるのが、『歯みがき粉って、結局どのくらい使えばいいんですか?』という質問です。実は、ここにもすでに明確な目安があります。
2023年に日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科学会が合同で示した推奨では、6歳以上ではフッ化物配合歯みがき剤を歯ブラシ全体に約2cm、1日2回使うことが勧められています。

では、なぜ“毛先の長辺いっぱい約2cm”も必要なのでしょうか。
理由は、歯みがき剤に含まれるフッ化物の量を、十分に歯面へ行き渡らせるためです。
これは、よく知られているスウェーデンの『2+2+2+2ルール』とも考え方が重なります。つまり、2cmの歯みがき剤を、1日2回、2分間使い、その後2時間は飲食を控えるという考え方です。
北欧の公衆衛生の現場でも、こうした指導は広く使われているようです。
フッ素は“飲む話”と“塗る話”を分けて考える
フッ素に不安を感じる方もいますが、このテーマは『体の中に取り込む話』なのか、『歯の表面に使う話』なのかを分けて考えることが大切です。ここを一緒くたにすると、話が混乱します。
たとえばアメリカには、水道水にフッ化物を加えるフロリデーションを行っている地域があります。

これは“飲むフッ素”の話です。2024年に米国国家毒性プログラムNTPが公表したモノグラフでは、飲料水中1.5mg/Lを超える高濃度のフッ化物摂取と、小児の知能指数低下との関連が中程度の確信度で示されました。これを受け、米国では規制や制度の見直しの議論が進んでいます。つまり、『高濃度のフッ化物を長期に飲むこと』については、科学的にも行政的にも再検討が進んでいるのは事実です。
ただし、今ここでお話ししているのは、その議論とは別です。日本には水道水フロリデーションはそもそもなく、歯みがき剤のフッ化物は“飲む”ためではなく、“歯の表面に作用させる”ために使います。
大人用と子ども用では、フッ化物の考え方が違う
歯みがき剤のフッ化物は、歯の表面で局所的に働くもので、そもそも飲み込むことを前提にしていません。だから使用後は吐き出すように指導されているのです。
つまり、日本の通常の歯みがき習慣に対して、先ほどの“飲むフッ素”の議論をそのまま当てはめるのは適切ではありません。
成人が1450ppmの歯みがき剤を歯ブラシ全体につけた場合、含まれるフッ化物の総量は約2mg程度で、そのうち実際に飲み込む量はごく一部とされています。たとえると緑茶を数杯飲んだ時に摂る摂取量と大差ないレベルです。

高濃度のフッ化物を何年も飲み続けるような曝露とは、前提が大きく異なり、歯磨剤では到底到達できない量なんです。
ただし、例外があります。6歳未満の子どもでは、エナメル質形成期に継続して飲み込むことで歯のフッ素症が起こる可能性があるため、年齢別の使用量の目安が設けられています。先ほどの合同推奨でも、3〜5歳はグリーンピース大、

歯が生えてから2歳までは米粒程度が目安とされています。

では、1日を通して理想的な口腔ケアはどう組み立てるべきか?
ポイントは、歯ブラシを2本用意して役割を分けることです。
朝、目が覚めたとき、あなたはどのタイミングで歯を磨いていますか。
以前の動画でもお話ししましたが、朝はまず、夜のあいだに増えた細菌バイオフィルムを食事前に取り除いておく必要があります。
つまり、1回目の歯みがきは朝食前が理想です。ですがここで、『フッ素入り歯みがき剤を使ったら、その後2時間は飲食を控えたほうがいいんじゃないの?』という疑問が出てきます。
そこでおすすめしたいのが、朝食前と朝食後で“目的の違う2回磨き”に分ける方法です。
役割を分けると、ケアの精度は一気に上がる
朝食前の1回目は、歯周病予防のための“丁寧なバイオフィルム除去”が目的です。
このタイミングでは、基本的に何もつけずに、フロスまたは歯間ブラシ、歯ブラシ、必要なら舌苔ブラシまで行います。歯と歯ぐきのキワを狙って、毛先を小刻みに動かしながら、たまったバイオフィルムを崩していきます。
実際、機械的なプラーク・バイオフィルム除去については、歯みがき剤をつけた場合とつけない場合で除去率に有意差がないとする研究が繰り返し報告されています。つまり、バイオフィルムを壊してくれる主役は、あくまで毛先の物理的な動きなんです。
もし『何もつけないと磨いた気がしない』という方は、フッ素が入っていないタイプを少量使ってもかまいません。手間を減らしたい方は、何もつけずに電動歯ブラシを使うのも一つの方法です。
逆に、リステリンなどで1分ゆすぐ時間があるなら、その1分を歯間ブラシに回したほうが、バイオフィルム除去にはずっと効果的です。
朝食後の2回目は、むし歯予防のための“フッ化物を歯面に残すこと”が目的です。
ここでは、クラプロクスのようなやわらかめの歯ブラシに、フッ素入り歯みがき剤を長辺いっぱい約2cmつけ、歯全体に行き渡らせるイメージでやさしく磨いてください。食後は歯面がやや傷つきやすいこともあるため、あえて毛先のやわらかいクラプロクスなどの歯ブラシを使う意味があります。
『1本ですべて解決』が、実は非効率なこともある
昔、リンスインシャンプーが流行った時期がありましたよね。シャンプーもリンスも一度で済ませたい、という発想です。でも結局、どちらの役割も中途半端になって、今ではあまり見かけなくなりました。
歯みがき剤も、考え方は少し似ています。
メーカー側は『これ1本で全部OK』と訴求しがちですが、バイオフィルムを落とす補助として使う目的と、きれいになった歯面にフッ素を残す目的は、実は同時に最大化しにくいのです。
だから順番が大切です。まずは機械的にバイオフィルムをしっかり落とす。必要なら歯周病向け成分入りの歯みがき剤を補助的に使い、その後はいったんしっかり洗い流します。

次に仕上げとして、フッ化物が多めの歯みがき剤をきれいになった歯面に行き渡らせ、軽く1回すすぐ程度にして残す。そしてその後2時間は口に何も入れない。これが、理にかなった効果的な口腔ケアとなります。
夜は、基本的には朝ほど複雑に考えなくても大丈夫です。目覚めた直後ほどプラーク量が多いわけではないので、夕食後から就寝前に、フッ素入り歯みがき剤を使って丁寧に磨き、その後は何も口にしないで寝る、これを徹底できれば十分です。
いかがでしたか。歯ブラシの目的は、むし歯と歯周病を予防することです。
そしてその中身は、大きく2つです。まずは細菌のかたまりを機械的に取り除くこと。次に、きれいになった歯面にフッ化物を行き渡らせて守りを強くすること。この2つを分けて意識するだけで、毎日の口腔ケアはぐっと整理しやすくなります。

西国分寺レガデンタルクリニック院長・歯科医師。歯の治療は、一般的な内科治療などと少し違いがあります。それは「同じ箇所の治療でも、やり方がたくさんある」ということ。例えば、1つの虫歯を治すだけでも「治療方法」「使う材料」「制作方法」がたくさんあります。選択を誤ると、思わぬ苦労や想像していなかった悩みを抱えてしまうことも、少なくありません。
当院では、みなさまに安心と満足の生活を得て頂くことを目標に、皆様の立場に立った治療を心がけています。お気軽にお越し下さい。