皆さんの歯並びやかみ合わせ、問題ありませんか?
今回はあなたが歳をとってから、ご自分の歯を失って後悔しないためにもぜひ早いうちに知っておいてほしいリスクのある歯並びについてのお話しをします。
動画でも配信しています
歯並びが悪いことで、将来抜歯の可能性が高まる
歯並びが悪いだけで、どうして抜かれるほど歯がだめになるんですか?・・・と思われる方いると思います。このブログを最後までご覧いただければきっと納得いただけます。
悪い歯並び、と一言で言ってもいろいろです。
- 出っ歯の方
- 受け口の方
- 歯が混み合って窮屈な歯列の方
- すきっ歯の方
放っておいても将来さほど歯に問題が起きにくいものもあります。但し放っておくと将来歯を失うリスクが高くなるものもあるんです。
一般的にきれいな歯並び、良いかみ合わせの方は、歳をとっても歯を失いにくいという調査報告があります。
なぜかというと、
- 歯並びが悪いと、歯磨きがしにくく磨き残しの部分が増えてリスクが高まる
- 噛んだ時に特定の歯へのかたよった負担が続くために、その負担の持続的な力のせいで歯周病になるリスクが高まる
事が大きいです。
歯周病を引き起こす原因の1つが「噛み合わせ」に関連
そもそも歯がぐらぐらとなる歯周病の原因は、大きく分けて2つあります。
ひとつは、口腔ケアの仕方が悪いためにおこる細菌性プラークの出す毒素による持続的な刺激のせい、簡単に言えば歯の汚れの放置です
そしてもう一つは、咬合性外傷と呼ばれる歯への持続的にかかる無理な力のせい、簡単に言えば無理な力の放置です
歯科医学会の世界でも「噛み合わせ」が歯周病に影響すると結論
実は、歯科医学会の世界でも、この2つ、どちらの影響が大きいのか、といった議論はすでに100年以上も前からされてきました。
1901年にKarolyi という人は、咬合ストレスおよび「歯槽膿漏」という論文を発表しています。その後1965年Glickman 1977年Lindheといった著名な歯周病の学者も、かみ合わせと歯周病についての論文を発表してきました。
そして現在では
歯周病は細菌によるバイオフィルム感染症であるということ、そして咬合性外傷と呼ばれる歯にかかる無理な力の影響もうけるものである
と、かみ合わせは歯周病悪化の修飾因子という結論に至っています。
無理な力の影響と言ってもプラークや歯石の様に実際に目で見えるものでないために、その存在を診断上、特定して判断するのがとても難しいわけです。
かみ合わせについての研究論文は過去いろいろな方が出してきました。
関連する研究論文について
今回は、かみ合わせについて,深い考察をされてきている、お2人の大学の名誉教授の出されている論文の考え方に加えて、開業して30年間に集めた当院の実際の臨床データを具体例として、危険なかみ合わせについてご紹介します。
咬合と歯周病についての考え方のエビデンスを重視される方、興味がありもっと深く知りたいとお考えの方は根拠となる論文の参照先などを下に添付しておきますので、ぜひご覧になってみてください。
今回参考にさせていただくお二人の名誉教授の論文は
- 九州歯科大学名誉教授、横田誠先生が2017年の日本顎咬合学会誌に出された
早期接触の解明
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacd/37/1-2/37_17/_pdf - 徳島大学名誉教授、坂東永一先生が2017年の顎咬合学会誌に出された
望ましい咬合を求め続けて
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacd/37/3/37_178/_pdf
です。
今回の本題
さて、本編の目次です
- メンテナンスクリーニングをまじめに受けていても、歯を徐々に失っていく人がなくならない理由
- 絶対に早く矯正しておきたい2パターンの危険なかみ合わせとは
- どんな噛み合わせなら長期的に安全なのか?
- どうやってかみ合わせを診断して歯並びを治すのか
- いまさら歯並びを治せない人はどうすればよいのか
メンテナンスクリーニングをまじめに受けていても、歯を徐々に失っていく人がなくならないのはなぜか?
最近、歯周病予防のために継続的な歯のメンテナンスクリーニングをまじめに受けられる方、増えてきましたよね。とてもうれしいことです。
しかし、まじめにメンテナンスをお受けいただき、定期的に口腔内をきれいに保っていただいているにもかかわらず、なぜか前歯や奥歯が次第にぐらぐらになる、破折する、などで抜歯されていくトラブルを抱える患者さんがゼロにならないという現実があります。
しかも、グラグラの歯は、突発的な事故や転倒で何かにぶつかってしまったような、昨日今日突然起きたものではありません。
なぜそうなってしまうのか?それは歯並びの問題
すでに少しずつ長い間に歯を支える骨全体が減ってきたところに加えて、持続的な力の影響を受けすぎてきた歯から先にぐらついてきた結果なんです。
しかも、いつも決まったパターンの噛み合わせの人でそうなりやすいということがわかりました。つまり、歯並び・噛み合わせが悪かった結果なのです。
そして、残念ながら歯並び・噛み合わせを改善するための矯正治療は
「歯周病がすでに進んでしまった方の場合基本的にはお受けいただけない」
治療なのです…。残念ながら気づいたときには手遅れというのが現状です。
この形が原因の歯周病は非常に気づきづらい
完璧な口腔ケアができている人はそう多くないのが現状です。
ほとんどの方は歳をとり免疫力が衰えてくれば、歯を支える骨は歳とともにある程度は減り続けます。もちろんすぐに症状は出ないので最初は誰も気づかないだけなんです。
まして、若いうちは無自覚の方がほとんどでしょう。
- 実は噛み合わせの問題で歯周病が少しづつ進行している
- しかし症状が出ていないので、そのまま同じレベルの口腔ケアを続ける
- 歳を重ねて、歯を支える歯槽骨が全体的に減っていく。特に中年以降、一部の歯のぐらつきに何となく気づく。
- はじめてその時点で自分は歯周病が進行していると気づく
というケースが多いのです。
気づいた時には手遅れで対処ができないことも
歯周病の原因が歯並びだったということをその時点で知らされても、時すでに遅しになってしまいます。
そこで、どういった歯並びの人が将来歯を失いやすくて、そういったリスクのある人に前もって知らされていたなら、とっくの昔に矯正治療だけはしておこう、というお気持ちになっていただけるのではないかな、ということなんです。
絶対に早く矯正した方がよい危険な2種類のかみ合わせとは
では、どんなタイプの歯ならびの方が、将来歯を失うリスクが高くなる危険な歯並びなのでしょうか。
これは私が30年以上多くの患者さんを追跡してたどり着いた結論です。
これからお話しする2つのタイプのかみ合わせの方に限って、メンテナンスしているにもかかわらず、やがて歯がぐらついて抜歯に至る確率が非常に高い傾向にありました。
但し、ご注意いただきたいのは、その危険な2つのかみ合わせのすべての方が必ず将来ぐらぐらになると言っていているのではなく、その人はあくまでそうなるリスクが高まるということです。ご不安の場合は自己判断ではなく、受診をお勧め致します。
人の顎の形は様々です。丈夫すぎるくらい頑丈な顎を持っている人は、噛む力がもともと強くて、しかも夜の歯ぎしりも強いので、基本的にリスクは高めといえます。
一方、細面であまりかむ力が強くない方は、そもそも噛む力の影響を受けにくいためにリスクも低いです。
さらに、もともとの歯周組織の健康状態も免疫力の強さに依存するために、人によってだいぶ異なります。
リスクのある2パターンのかみ合わせ
まず、付箋紙などを用意してご自分の歯並びを鏡で見てみてください。一つ目は
① 前歯の上か下が叢生(乱杭歯)で、奥歯で噛んだ時に同時に前歯と奥歯が強く当たっている歯並び・かみ合わせの方です。一例としては写真にお見せしているような方です。
前歯と奥歯が同時に当たっているか否かを調べるには、以下のテストを行ってみて下さい。
- 上下の切歯4本ぐらいの間に付箋紙をのせて、奥歯でしっかりと噛んでみてください。
- 奥歯で咬んだ時、付箋紙を引っ張って、どれくらいの力で抜けるか、また下の顎を少し前に出したときにどうなるかを確認して下さい。
正常なかみ合わせの人は薄い紙はスーッと抜けるくらいのゆとりが上と下の前歯の間にはあります。そして、下の顎を少し前に出したときに初めて薄い紙が抜けなくなるかみ合わせが正しいかみ合わせです。
前歯も臼歯も同時にタイトにかみ合っていて、奥歯で噛んだままでも前歯で抜けずに紙がちぎれてしまいます。これが危険な噛み合わせです。
次に問題となる2つ目のパターンは①の逆です。
② 奥歯で噛んだ時、または顎を前や横に動かした時にも、切歯や犬歯がほとんどぶつからない、前歯がいつもすきっ歯のかみ合わせの方です・・・一例として写真のような方です
顎をどう動かしても付箋紙は前歯でちぎれない人です。
まとめると…
もう一度まとめますと、
- 前歯と奥歯が同時に強く当たりすぎているかみ合わせの方
- 奥歯しかかみ合っておらず、どこに顎を動かしても上と下の前歯があたらないかみ合わせの方
この2つのどちらかに該当する方は、将来歯周病でご自分の前歯か奥歯を失いやすい、リスクの高い要注意なかみ合わせの方です。
このかみ合わせ、奥歯の干渉や前歯の干渉が特に強い外傷性咬合という噛み合わせのタイプに当たります。
該当の噛み合わせで歯を失ってしまった方の例
そういったかみ合わせで、すでに歯を失われてしまった方の実際の写真をご覧ください。
干渉のより強い部分から先に破折したりぐらつき始めるようになります。この方、すでに奥歯は抜かれてしまって、今では奥歯に義歯を入れて生活されています。
最近は上の前歯もぐらついてきています。
この方は前歯の上下に被蓋関係がなく、切端同士で噛んでいます。
具体的なメカニズム
正常な場合のかみ合わせでは、下の歯を半分くらいおおいかぶさるように上の歯が位置していて被蓋があります。
前歯がこういった位置にない方の場合、アンテリアガイダンスと呼ばれる咀嚼運動時のかみ合わせのサイクルを制御できません。
そのため、咀嚼の幅が横にぶれやすい力が多くなり、結果的に臼歯部への干渉と早期接触が増えて歯周病が進んで、最終的に奥歯も前歯もグラグラになって抜歯に至ったと推察される患者さんの例です。
危険なかみ合わせは早期に矯正を
歯を失うと、そこに入れ歯を入れたり
ブリッジにされたり、インプラントを入れたり
といったお金のかかる治療が待っています。
そんな残念な状況になってしまうくらいなら、そもそもそうならないように危険なかみ合わせをあらかじめ治しておいたほうが、ずっとその先楽だではないでしょうか。
歯に干渉が少ない、長期的に安全なかみ合わせとは
人間の咀嚼の仕組み
人のかみ合わせは奥歯と前歯、そしてあごの関節そして動かす筋肉の3つの働きでできています。
人は食事をする際、口を開ける筋肉と、閉じる筋肉を使って噛もうとする筋肉のおかげで、すっと無意識に噛みます。
物をガブリと噛んで、そこからもぐもぐと奥歯の方で咀嚼を始めていきます。
いわゆる「噛み癖」とは
もし、歯並びが悪い場所とか、かぶせ物の形が悪い場所などがあると、どんな人も噛みにくいところを無意識にさけて噛むようになります。
実はこの時、口の中では、顎を動かした際に歯がじゃまになる干渉と呼ばれる現象がすでにおきているんです。なんか咬みにくいなあ・・・といういわば窮屈な状態です。
それでも、何となく我慢して使い続けていくと、そのうち、よく使う場所とそうでない場所といった、いわゆる噛み癖が出来上がってきます。
「噛み癖」がなぜ危険性があるのか – 咀嚼サイクル
より強く当たる歯やよく使う歯はだんだんと疲労し始めてきます。
また、危険なかみ合わせ2番目に紹介したオープンバイトのように、
噛みづらい場所がたとえなくても、前歯が機能していないかみ合わせなので、咀嚼サイクルがワイドにぶれやすくなり、横殴りの力が奥歯にいつもかかり続けてしまうことになります。
本来、上の前歯の裏側はいわば飛行場の滑走路のように下の前歯の誘導を行います。
顎を動かすと歯にぶつかるという認識が脳の中に記憶され、自然と垂直パターンのサイクルで咀嚼するようになります。
ところが、前歯にガイドがないオープンバイトなどの方は指標となる前歯のガイドがないので咀嚼サイクルが無意識にワイドになってしまうわけです。
もちろん食事するのには何も困らないのですが、このようなかたの咀嚼サイクルはご自分では気づかれないかもしれませんが、牛のようなすりつぶし型の噛み方になっています。
こういった外傷性咬合と呼ばれる力は、長期的には歯を失う原因の一つとなっている干渉のある状態なんです。
正常なかみ合わせとは?
要するに、正常なかみ合わせとは物を噛んで顎を動かしたときに前歯と奥歯に、この干渉がなくスムーズに咬める状態であると言えます。
干渉がない状態とはかみ合って歯が動く際に、上と下の歯は点と点でしっかりと噛んでいます。
また、動くときに若干の遊びがあり、歯の奥歯にある凹凸のぶつかり合いが邪魔にならずに、動いたときに凹凸をすり抜けるように力が分散され、歯がかみ合わさったあとも歯への負担がかかりづらい状態のことなんです。
正常な人の前歯と奥歯を横から見た模式図ですが、黄色い部分が遊びのスペースです。
(臨床家のための歯科補綴学 E.Piehslinger ウィーン大学歯学部教授著 より)
前歯の場合も奥歯の場合にも必要で、このスペースがあるおかげで干渉なく歯を動かすことができるわけです。
干渉のないかみ合わせでは、歯は点と点でしっかりと噛んでいるのに、動かすときには邪魔にならないので、よく切れる包丁でトマトがスパッと切れるように、軽く噛むだけで食べ物がよくこなれて、歯への力の負担も小さくて済みます。
顎の動きは回転しながら滑走するダイナミックな動き
顎は回転しながら滑走して開け閉めしてダイナミックに動きます。
この滑走時の動きと角度はその人その人固有の顎関節の形態とリンクしています。
開いて閉じる、開いて閉じる・・・この時に顎は回転しながら滑走して、その軌跡がわかりやすいように運動経路でしめされます。これは顎運動記録装置で採得できます。
このデータから得られるカロという角度を実際の歯牙のあるべき角度に反映させて、安全な位置に歯牙を配列していく計画を立てます。
この図は日本人の上顎に対しての正常な骨格の人の頭蓋の基準平面に対する平均的な歯の角度を示しています。
(The Bulletin of Kanagawa Dental College 2009;37(1)Takei,Akimoto,Sato)より
上の方にあるイラストは顎関節の付け根の部分だけを描いてありますが、滑走する角度はおおよそ犬歯の歯の角度と同じくらいなのです。
つまり、犬歯の角度がその人の顎の滑走時の動きと同じくらいの角度となっているときが、その人の顎の動きと調和のとれた状態と考えられるのです。
この角度は急すぎても緩すぎてもダメです
顎の動きにあった噛む歯の形態が決定されている
このように、ヒトの天然歯の咬合面の凹凸の角度は前歯から後ろの臼歯に行くにつれて、段々となだらかな角度で構成されているのがわかります。
これは顎の関節に近い奥歯の咬合面の角度が、もし急すぎると歯が滑走して動いた時に歯への干渉が強くならないようになってしまうのを防いでいるので、自然と前歯から奥歯に行くにしたがって順次なだらかな角度と形態になっているのでしょう。自然に作り上げたと言っても驚きです。素晴らしいですね。
ウィークリンクセオリー
ちょっと脱線しますが、
皆さんが、まだ若ければ、免疫力も強く、歯周病もすすんでいないので歯槽骨が全体的に減っていません。
歯を支える骨もまだしっかりしていて、歯並びが悪くて干渉が強いかみ合わせでも歯がぐらぐらになりにくいだけなのです。
その代わり、歯並び、かみ合わせが悪いと、ぐらつかないものの、顎の付け根が痛くなる、顎関節症という現象が出てくることが多いようです。
歯にしわ寄せが来るか、歯周組織にしわ寄せが来るか、顎の付け根にしわ寄せが来るか、
などその人の弱い場所に症状が出やすいことから、ウィークリンクセオリーなどといわれているようです。
初期では特定の歯だけがしみる、腫れた感じの歯肉の痛み、自発痛などの症状があるようです。別のブログで歯の痛みの原因についても話していますのでそちらもご参照いただければと思います。
どうやって治していくのか
1.顎のズレを計測し見極める
まず今の噛み合わせで上と下の顎がどれくらいずれているかどうか確認していきます。
その上で、今の噛み合わせの高さと咬合平面の角度に問題ないかどうか、顎の大きさに対して歯が並びきるスペースがあるか否かなどの見極めを行います。
その際、レントゲンと模型をもとに計測します。
2.顎の動きと角度を計測する
その人固有の顎の動きと角度などを顎運動記録装置で調べます。
前歯の角度や奥歯の凹凸が最終的にどれくらいの角度ならその方の顎の動きにあっているかなどを調べていきます。
3.得られたデータを基に矯正を進める
以上のデータから原因を解明して、その方にあわせた治療計画を立てて、矯正装置を選択して矯正装置をセットして矯正開始します。
この際、1と2で行った、その方のかみ合わせの事前の検査と診断がとても重要となります。
歯を具体的に動かす方法は大きく分けて2通りあります。
歯の表面にブラケットと呼ばれる装置を張り付けてワイヤーをつけて歯を動かす方法
と、アライナー矯正と呼ばれる透明な装置を歯にはめて動かす方法です。
アライナー調整の概略
アライナー矯正の場合にはコンピューター上で読み込んだ最初の悪いかみ合わせの歯型を、徐々にいい状態に動かして、コマ送りでその途中の段階を透明なプラスチック装置で多数作ります。
そしてそれを一週間から10日に一度くらいの順にどんどんご自分で乗り換えていく方法です。ワイヤー矯正の様に目立たないのと食事の時には取り外しができるので、最近かなり人気が出てきたやり方の一つです。
基本的には食事以外のすべての時間つけっぱなしです。
ワイヤーがよいか?アライナーがよいか?
歯の動くメカニズムは、歯に何らかの力をかけると、力をかけた側に骨を作る細胞その反対側に骨を溶かす細胞が歯の根っこの周りにそれぞれ出現します。すると一時的に歯はグラグラになりながら目的の方向に少しずつ動いていきます。
基本的にワイヤー矯正は重度の不正咬合治療向き、
アライナー矯正は軽度の不正咬合治療向き
と今まで言われてきました。
アライナーは軽度向きと言われていたが…今はより広く対応可能に
その理由は、アライナー矯正の場合には3次元的な力、特に歯への上下方向の力を歯にかけにくいために、といった欠点があったからです。
ところが最近のアライナーには、歯の表面にアタッチメントと言って樹枝の突起を一時的につけることで、3次元的な移動がある程度コントロール可能となってきたことで、咬合平面の補正のアプローチもだんだんと可能になってきました。
その結果ワイヤー矯正をもってしかできなかった難しい症例もだいぶカバーできるようになってきたという経緯があります。
それでも、重度のクラスⅢと呼ばれる骨格的な受け口(反対咬合)の治療には、まだ不向きな場合が多いようです。
歯並びをいまさら治せない人はどうすればよいのか
すでにお伝えしたように、歯がだめになる2つの理由は「歯の汚れの放置と無理な力の放置」でした。
・歯の汚れは放置せずに原因を取り除き、定期的な指導やメンテナンスで歯周組織が破壊されるのを抑制していきましょう。
歯周ポケット形成の初発機序を考える(日本歯周病学会2014年)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座歯周病学分野
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/55/3/55_256/_pdf/-char/ja
・もし過剰な咬合力の関与が疑われていながら、矯正治療をいまさら受けられない場合には、夜間寝るときだけでもナイトガードをつけて、特定の歯への負担をかかりにくく、咬合力を分散させた状態にするなどの対症療法で対応していきましょう。
歯周病病態における咬合性外傷の再考(日本歯周病学会2014年)
奥羽大学歯学部歯科保存学講座歯周病学分野
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/62/2/62_47/_html/-char/ja
そもそも噛む力のとても強すぎる方の場合、最近はボトックス注射などを噛む筋肉に注射して、噛む筋肉の力そのものを減らそうとする治療方法すら出てきているようです。
最後に
人生100年生きられる時代になりました。
とはいへ、ヒトの歯は皆一生に1回しか生えてきません。
洋服や車のように、ダメになり古くなったからと言って何度でも簡単に買い替えられるものではないんです。
歳をとってからの最大の楽しみの一つは、何でも気兼ねなく食事ができることではないでしょうか。その為にも、何よりもまずご自分の歯は最優先するだけの価値が十分あると思いませんか。
この文章を最後まで読んで下さった方は、きっと口腔内環境に関心を持っていただけている方なので、まだ間に合うと思います。
歯への汚れと無理な力を放置しない、ベストな口腔内環境を維持するかしないかはあなた次第と言えます。
今後もなるべく皆様のお役に立てる情報をアップデートしていきます。
西国分寺レガデンタルクリニック院長・歯科医師。歯の治療は、一般的な内科治療などと少し違いがあります。それは「同じ箇所の治療でも、やり方がたくさんある」ということ。例えば、1つの虫歯を治すだけでも「治療方法」「使う材料」「制作方法」がたくさんあります。選択を誤ると、思わぬ苦労や想像していなかった悩みを抱えてしまうことも、少なくありません。
当院では、みなさまに安心と満足の生活を得て頂くことを目標に、皆様の立場に立った治療を心がけています。お気軽にお越し下さい。