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この動画の内容・目次
突然ですが、こんな経験はありませんか?
あなたの周りに、特別に口腔ケアへ熱心ではないのに、虫歯や歯周病がなく、歯医者とは無縁に見える人はいませんか。
一方で、しっかり磨いているのに、歯周病や虫歯の治療を何度も繰り返し、なぜかすぐに再発しやすい人もいます。
なんだか不公平に感じませんか?
歯石はついていなさそうなのに、なぜかすぐに口臭が気になる。
いつも歯磨きしているのに、磨くと血が出やすい。
毎日きちんと歯を磨いているのに、歯医者に行くたびに「いつも歯石がついていますね」と言われる。
その原因は、あなたの唾液のタイプに合った口腔ケアができていないことにあるかもしれません。
今回は、最新の唾液研究をもとに、口腔トラブルの根本原因を「唾液タイプ」という観点から解説します。
性格診断で血液型が使われることがあるように、唾液にもタイプがあります。そして、そのタイプに合った口腔ケア戦略があります。
ご自身の唾液タイプの特徴がわかれば、口腔ケアはより効率的に変えられます。自分に合った、効果の出やすい口腔ケアを知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
【第1章|唾液とは何か?】
まずは、唾液の基礎知識からお話しします。
唾液は一日に約1〜1.5リットル分泌されるといわれています。これは、500mlペットボトル2〜3本分に相当します。
唾液の成分のほとんどは水分です。そのほかに、アミラーゼなどの消化酵素、免疫グロブリン(IgA)、ムチンというタンパク質、そしてカルシウム、リン酸、重炭酸イオンなどの無機イオン成分が含まれています。
健康な口腔内を維持するために、唾液は欠かせません。唾液のpHの理想値は、安静時で6.8〜7.4とされています。
口腔内のpHが変動しても、すみやかに理想範囲へ戻す力があります。これを唾液の緩衝能といいます。
そして、先ほど挙げた唾液の成分が、この緩衝能を支える大きな役割を担っています。
ところが、実際には唾液成分の組成バランスは、人によって大きく異なることが研究でわかっています。
その違いは、遺伝的要因、食生活習慣、全身疾患の有無、薬の服用、ストレスレベル、ホルモンバランスなどによって大きく変化すると考えられています。

もしすべてが遺伝で決まっているなら、対策のしようがないと思われるかもしれません。しかし、そんなことはありません。ご自身の唾液タイプの弱点を知れば、そこに注意して口腔ケアに取り組めばよいからです。
人の唾液タイプは、次の4タイプに大きく分けられます。
①汚れが付きやすい唾液 ②歯周病菌が好む唾液 ③歯石が付きやすい唾液 ④口臭が出やすい唾液
さらに、60%の人は、これら4タイプのいずれかをベースにした複合タイプだといわれています。
まずは、ご自身の唾液が4つの基本タイプのどれに近いのか、その特徴を知っていただきます。その後、それぞれに合った口腔ケア戦略を説明し、最後に複合タイプについても解説します。
ただし、どの唾液タイプであっても、基本的な口腔ケアができていることが大前提です。この点は忘れないでください。
【第2章 タイプ①──汚れが付きやすい唾液の人──「歯垢・バイオフィルム形成型」】
このタイプは、プラーク(歯垢)がすぐに形成されやすく、虫歯も多発しやすい唾液の持ち主です。

ご自身がこのタイプかどうかを見極めるチェックポイント
✅ 朝起きると、口の中がネバネバしていることが多い
✅ 食後すぐに歯の表面がざらざらする感覚がある
✅ 歯医者さんの定期健診で、いつも「磨き残しやプラークが多い」と指摘される
✅ 甘いものが好きで、間食が多く、食後のケアをおこたりがち
✅ すでに虫歯治療を受けた場所があちこちにある
歯垢、いわゆるプラークの正体は、ストレプトコッカス・ミュータンスという虫歯細菌が、唾液中の糖タンパク質であるムチンやプロリンリッチタンパク質を利用して歯面に作るバイオフィルムです。
このとき、虫歯菌が作り出すグルコシルトランスフェラーゼという酵素が、砂糖(スクロース)からグルカンというネバネバした「接着剤」を合成します。これがバイオフィルム形成の足場になります。
このタイプの人の唾液の特徴は3つあります
- 唾液が少なめで緩衝能が低く、ムチン成分が優位になりやすいため、唾液が酸性に傾きやすい
- 唾液中のIgAと呼ばれる抗菌免疫タンパクが少ない
- 口腔内の糖質代謝が活発で、酸を生み出す細菌が優位になりやすい
このタイプの唾液の人への対策は5つあります
①まず重要なのは、食事と食事の間の間食を減らすことです。どうしても間食をとる場合も、なるべく時間を決めて摂取することが大切です。
砂糖や炭水化物の摂取頻度が高いほど、グルカン合成が進み、バイオフィルムが厚くなるからです。デスクワーク中に清涼飲料水をだらだら飲む、スナック菓子をだらだら食べるといった習慣は避けましょう。
②汚れが付きやすい方は、単一のケアよりも「汚れを浮かす力」と「表面を整える力」を組み合わせると効果が変わります。
唾液の粘り気が強く、細菌がバイオフィルムを作りやすいタイプなので、膜の内部まで浸透して殺菌する成分が必要です。
- 注目成分:IPMP(イソプロピルメチルフェノール)
- メカニズム:通常の殺菌剤が届きにくいバイオフィルムの内部まで浸透し、原因菌を殺菌します。例として、ライオン|システマ SP-T ジェルがあります。
また、このタイプは歯の表面にある微細な傷に、汚れや菌が入り込みやすい傾向があります。表面を「埋めて滑らかにする」ことで、汚れの付着そのものを防ぎます。
- 注目成分:薬用ハイドロキシアパタイト(ナノ粒子)
- メカニズム:歯のエナメル質の微細な欠損を修復し、表面をなめらかにします。窓ガラスがきれいだと雨水が流れやすいように、汚れが滑り落ちやすい環境を作ります。例として、サンギ|アパガードリナメルがあります。
- 夜のメイン磨き:システマ SP-T ジェルで殺菌し、汚れの元を断つ。
- 仕上げ・朝の磨き:アパガードリナメルで表面を整え、その日の汚れをブロックする。
次に、フッ化物の適切な使用です。フッ素はエナメル質を強化するだけでなく、グルコシルトランスフェラーゼの活性を阻害する効果も報告されています。低濃度フッ素配合のレノビーゴなどのフッ素スプレーを持ち歩き、食事と食事の間に数回使うのも効果的です。
③さらに、キシリトールガムの活用です。
キシリトールは、砂糖の成分であるスクロースと構造が似ています。そのため、S. mutans菌はグルカン合成のために取り込もうとしますが、代謝できません。結果的に、ミュータンス菌の増殖を抑える働きが期待できます。
何かを口に入れていないと落ち着かない方には、キシリトール入りのガムやキャンディーがおすすめです。北欧などでは、食後にキシリトールガムを噛む習慣がある地域もあります。
④また、健常者が受けるとよいとされる年4回程度の自費の戦略的予防クリーニングの際に、医療ホワイトニングをオプションとして同時に受けることも有効です。
医療ホワイトニングは一般的には歯を白くする効果で知られていますが、歯への健康効果もあることがわかっています。医療ホワイトニングを受けることで、歯の汚れが付きにくい歯面へ徐々に変化するという研究結果も報告されています。
自分の歯をフライパンに例えるなら、古くなったフライパンを、最新のテフロン加工にし直すようなものです。クリーニングで汚れを取り除いた後、医療ホワイトニングを重ねることで歯の表面が整い、ネバつきや着色が付きにくくなっていきます。
つまり、ステインなどの汚れが付きにくい「頑張らなくてもきれいが続きやすい口内環境」を、徐々に作っていけるということです。歯と歯の間のステインや茶渋が気になる方には、クリーニングだけでなく医療ホワイトニングを取り入れることもおすすめです。
⑤最後に、薬剤を使わず自然な方法で歯への汚れを付きにくくしたい方には、通常の口腔ケアの後に、アーユルヴェーダ的な予防方法として、エッセンシャルオイルで口をゆすぐ方法があります。
代表的で手に入りやすいものに、ココナッツオイルがあります。コーヒーなどに混ぜて飲む方法もあります。ココナッツオイルには、歯の表面の汚れを付きにくくする効果が認められるという論文があります。薬剤系をあまり口に入れたくない自然派志向の方には向いているかもしれません。
【第3章 タイプ②──歯周病菌が好む唾液の人──「歯周病菌親和型」】
タイプ②は、歯周病の原因菌が繁殖しやすい環境を、唾液が作り出してしまうタイプです。
ご自身がこのタイプかどうかを見極めるチェックポイント
✅ ストレスが多く、慢性的な疲労感がある
✅ 歯石がないのに歯ぐきが腫れやすく、出血することが多い
✅ タバコを吸うことがある
✅ 糖尿病、または血糖値が高めと言われたことがある
✅ 親や兄弟姉妹に歯周病の人がいる
✅ 思春期以降の女性で、月経やホルモンバランスが不安定になりやすい
歯周病の主要な原因菌として知られているのは、Pg菌と呼ばれるPorphyromonas gingivalisです。
そのほかに、Treponema denticola、Tannerella forsythiaなどがあります。これら3つは「Red Complex」と総称される、嫌気性、つまり酸素を嫌う歯周病細菌です。
このタイプの人の唾液の特徴は3つあります
- 唾液中の炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の濃度が高い
- 唾液中の好中球エラスターゼ活性が高く、免疫反応が慢性的に活性化している
- 唾液中にヘミン(ヘム鉄)結合タンパク質が多く、Pg菌のエネルギー源になりやすい
一つ目と二つ目は、免疫系に関わる問題です。ストレスに敏感になりやすい遺伝的背景が関係している場合があります。
①一つ目は、炎症性サイトカインが高い唾液です。炎症性サイトカインとは、体の「警報システム」のようなものです。体内に細菌やウイルスが入ってきたり、けがをしたりしたときに、免疫細胞が放出する「緊急警報物質」です。
本来、この物質は感染やけがなどの異常時に一時的に上昇し、治れば自然と下がるものです。ところが現代人は、情報過多なストレス社会に生きているため、体に大きな異常がなくても、この警報が出続けてしまうことがあります。その結果、あらゆる慢性疾患の引き金にも深く関わることがわかってきました。
この遺伝子多型を持つ人は、同じストレスや感染を受けても、より強く、長くサイトカインが上昇しやすい素因を生まれながらに持っています。心の中が常に戦闘態勢で、不安や心配事、悩みを抱えやすい人ともいえます。
一昔前によく取り上げられたHSP、いわゆる繊細さんと呼ばれる感受性の高い人も、この部類に入るかもしれません。また、セロトニントランスポーター遺伝子(SLC6A4)の多型のうちS型を持つ人は、不安感やストレス感受性が高いといわれています。この割合は日本人に多いとされています。
②二つ目は、唾液中の好中球エラスターゼ活性が高い唾液です。歯周病で歯ぐきの下の歯槽骨が溶けるのは、歯周病細菌が直接骨を溶かしているからではありません。
実際には、あなた自身の免疫細胞が細菌を倒そうとして放った「武器」が、誤って自分の歯ぐきや骨まで破壊しているのです。好中球エラスターゼとは、その武器の名前です。
そして、その武器の引き金を引いているのは、細菌だけではありません。慢性的なストレス、睡眠不足、喫煙、生まれつきの神経系の感受性の高さなどが、免疫細胞を「過剰に戦闘的な状態」に保ち続けてしまうのです。
③女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがあります。これらが口腔組織に直接作用する受容体は、歯肉組織にも存在することが確認されています。つまり、口腔は女性ホルモンの標的臓器の一つであるという認識が確立しています。

実際、女性は一生を通じてホルモンバランスの変動が大きくあります。思春期にはエストロゲンとプロゲステロンが急激に増加し、歯肉の血管透過性が高まって、歯ぐきから出血しやすくなります。これを思春期性歯肉炎と呼びます。
血液中の成分であるヘム鉄は、歯周病悪玉菌であるPg菌の大好物です。出血があると、Pg菌にとって栄養が豊富な環境になります。
また、月経前にプロゲステロンが上昇する時期にも、歯肉は出血しやすくなります。さらに妊娠期にはプロゲステロンが大きく上昇し、歯肉の炎症感受性が高まり、出血しやすくなります。これを妊娠性歯肉炎と呼びます。
また、ピルを服用している女性も、歯肉の血管透過性が高くなり、歯ぐきから出血しやすい状態になることがあります。
このタイプの唾液の人への具体的な対策は4つあります
①最も重要なのは、歯間部・歯周ポケットのケアと、キワ磨きの徹底です。
Pg菌は、歯と歯ぐきの間にある歯周ポケットという、酸素を嫌う環境に生息します。
こうした深い部分に、デンタルフロスや歯間ブラシを通し、歯周ポケット周辺のバイオフィルムを物理的に壊すことが最も有効な対策です。
歯周病菌は、歯と歯ぐきの隙間に強固な膜、つまりバイオフィルムを作って潜り込みます。ここへ浸透できる成分がIPMP(イソプロピルメチルフェノール)です。また、唾液中に漂う歯周病菌が新たに歯ぐきへ定着するのを防ぐ成分が、CPC(塩化セチルピリジニウム)です。
そのため、IPMPとCPCの両方が入っている歯磨剤がおすすめです。この2つの成分が入っている歯磨剤として、ホワイトエッセンスのペリオテクト、ブレステックがあります。粘性の高いジェルが、歯周ポケット内に成分を長く留めてくれます。
自分一人では管理が難しい方は、自費で行う戦略的予防クリーニングを、四季ごとに年4回程度のペースで受けることをおすすめします。自分では取り切れていない、歯の周りにこびりついたバイオフィルムをきれいにしてもらい、古い慢性的なプラークをためないようにしましょう。
②次に、全身疾患の管理です。
特に重要なのは、糖尿病の管理です。糖尿病と歯周病の関係は、双方向性であることが証明されています。
双方向性とは、糖尿病の血糖コントロールが改善すると歯周病の炎症指標も下がり、反対に口腔ケアがしっかりできていると糖尿病のHbA1cの数値も改善する、という関係です。血糖値が高めの方は医師に相談し、糖尿病の管理にも取り組むことをおすすめします。
③大きく見逃せないのが、ストレス管理です。
コルチゾールと呼ばれるストレスホルモンは、唾液中の免疫グロブリンIgAを低下させ、歯周病菌への抵抗力を落とします。いつもストレスで心が戦闘態勢だったり、悩みを抱えていたりすると、炎症性サイトカインが増えやすくなります。
まずは、しっかり睡眠をとって休んでください。睡眠の質と口の健康は深く連動しています。毎晩眠れない夜が続いていませんか。誰にも言えない心配事を抱えていませんか。それが歯ぐきの炎症として現れている可能性があります。
交感神経が優位になると、唾液量が少なくなり、粘性が高まり、唾液は酸性に傾きやすくなります。
ストレスは目に見えない問題なので、自覚して管理する方法は人それぞれです。ご自身に合った工夫が必要ですが、これも口腔ケアの大切な一部として、ぜひ対策してください。
④女性の場合は、ライフサイクルを通じて歯周組織が影響を受け、出血しやすい時期やサイクルがあります。その場合には対策が必要です。
歯ぐきから血が出ることを、多くの人は「歯磨きが強すぎたかな」と軽く考えます。しかし研究の世界では、その赤い血こそが、歯周病菌にとっての栄養源になることがわかっています。
Pg菌という歯周病菌は、血液中のヘム鉄なしでは生きていけません。歯ぐきから血が出るたびに、Pg菌に食事を提供していることになります。
また、ホルモンバランスが不安定な女性は、医師から低用量ピルなどを処方されていることがあるかもしれません。ピルを飲んでいる人は歯ぐきが敏感になり、汚れが少なくても出血しやすい傾向があります。
その場合は、歯肉を傷つけにくいクラプロックスのようなやわらかめの歯ブラシで、丁寧にケアすることが大切です。
歯周病菌は血液中のヘモグロビンなどを栄養源にします。炎症を抑え、菌に「エサを与えない」ことが重要です。
このような方におすすめの歯磨剤は、トラネキサム酸、ビタミンE(酢酸トコフェロール)が入っているものです。トラネキサム酸は歯ぐきの出血を抑え、ビタミンEは歯ぐきの血行を促進して修復を助けます。
おすすめ製品としては、ライオンのシステマ ハグキプラス PROがあります。炎症抑制、組織修復、浸透殺菌のバランスがよく、歯周病菌が好む環境を変えていくことが期待できます。
食事面では、ビタミンCの不足やお酒の飲みすぎが、この状況を悪化させます。歯ぐきからの出血をゼロに近づけることは、Pg菌を兵糧攻めにする最も直接的な戦略ともいえます。
【第4章 タイプ③──歯石が付きやすい唾液──「歯石形成促進型」】
タイプ③は、歯石、つまり歯垢が石灰化したものが特に形成されやすいタイプです。これは唾液の無機イオン組成、特にカルシウムとリン酸の濃度と密接に関係しています。
ご自身がこのタイプかどうかを見極めるチェックポイント
✅ 口の中の唾液がよく出ており、唾液で満たされている感覚がある
✅ 毎日歯を磨いているのに、歯医者に行くたびに歯石を取られる
✅ 特に下の前歯の裏側や、上顎の奥歯の外側に歯石がよく付く
✅ 牛乳や乳製品をよく摂る
歯石は次の3ステップでできます
- 汚れがたまる:歯の表面に、細菌の固まりであるプラーク(歯垢)が付きます。
- 唾液の成分が混ざる:そこに、唾液に含まれるカルシウムなどの成分が染み込みます。
- 石のように固まる:成分が反応して結晶になり、カチカチの歯石へと変化します。ハイドロキシアパタイトやオクタカルシウムリン酸塩などです。
耳下腺唾液はカルシウム濃度が高く、その開口部は上顎の大臼歯付近にあります。顎下腺・舌下腺唾液はリン酸が豊富で、開口部は下顎前歯の裏側です。だから歯石は、上顎の奥歯の外側と、下の前歯の裏に付きやすいのです。
このタイプの人の唾液の特徴
- 遺伝的に耳下腺が発達していて、重炭酸塩濃度が高く、炭酸脱水酵素活性も強いため、アルカリ性に傾きやすい
- 唾液のカルシウム・リン酸濃度が高くなりやすく、歯石形成と連動しやすい
- アクアポリン5という遺伝子が高発現で、唾液分泌量が多く、緩衝能が高い
このタイプの方は、もともと唾液がしっかり出ているため、唾液による緩衝作用が強く働き、口臭も出にくいタイプです。
このタイプの唾液の方への対応
①歯石は一度形成されると、歯ブラシでは除去できません。そのため、このタイプの人にとっては、歯石を「形成させないこと」が戦略の核心です。
具体的には、頻繁な定期的プロフェッショナルクリーニング(PMTC)で、石灰化前のプラークを除去してもらうことです。ご自宅での口腔ケアには、電動歯ブラシの活用をおすすめします。超音波式は、石灰化初期のソフトデポジット除去に有効です。
特に、下顎前歯の裏側と、上顎大臼歯部の頬側を重点的に当ててください。
本来は、唾液分泌の多い食後30分以内のブラッシングを習慣化したいところです。ただし、食後すぐに磨くと歯面を傷つける心配があります。そのため、あえて食前に、プラークの足場となるバイオフィルムを取り除いておく方法もあります。
何もつけない歯ブラシで、下顎前歯の舌側と上顎大臼歯の頬側だけでも先に磨いておくと、食事中の汚れが付きにくくなります。
ピロリン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウムには、カルシウムイオンをキャッチする作用があり、歯石の初期形成、つまり石灰化を物理的に抑制します。ピロリン酸が入っている歯磨剤にはライオンのブリリアントモアW、ポリリン酸ナトリウムが入っている歯磨剤には花王のディープクリーンなどがあります。
②食事面では、歯石を作りやすくしてしまうシュウ酸を含む食品をとる際に工夫が必要です。ほうれん草、ナッツ類、コーヒーなどがありますが、食べ方を工夫すれば問題ありません。
例えば、ほうれん草のおひたしには鰹節をたっぷりかけてカルシウムと結合させる、コーヒーにはミルクを入れて飲む、といった方法があります。また、ナッツ類を食べた後は軽く口をゆすぐと効果的です。
【第5章 タイプ④──口臭が気になりやすい唾液──「口臭産生型」】
タイプ④は、口臭の原因物質が産生されやすい唾液環境を持つタイプです。
ご自身がこのタイプかどうかを見極めるチェックポイント
✅ 朝起きると口臭が強いと感じる。起床時口臭は誰にでもありますが、特に強く感じる
✅ 緊張したり空腹になったりすると、口臭が特に気になる
✅ 口が乾きやすい、または口で呼吸することが多い
✅ 魚や肉、チーズなど、タンパク質の多い食事が多い
✅ 舌が白っぽくコーティングされている。つまり舌苔が多い
✅ 更年期・閉経期の女性で、エストロゲンの急激な減少により、唾液量の減少やドライマウス、口腔乾燥症がある
このタイプの唾液の特徴
口臭の科学的な原因物質は、主に揮発性硫黄化合物(VSC:Volatile Sulfur Compounds)と呼ばれます。具体的には、硫化水素(H₂S)、メチルメルカプタン(CH₃SH)、ジメチルサルファイドの3種類が主要成分です。
これらは、口腔内の嫌気性細菌が、含硫アミノ酸(メチオニン、システインなど)を分解するときに産生します。関係しているのは、唾液のタンパク質濃度とpHです。
- タンパク質が豊富な唾液では、含硫アミノ酸の基質が多く、VSC産生の原料になりやすい
- 唾液分泌量が少ないため、唾液の緩衝作用が低下してpHが低くなりやすく、VSC産生が促進されやすい
- 唾液の分泌量が少ないため、自浄作用が低下し、細菌が濃縮されやすい
- また、遺伝的に唾液中のβ-ガラクトシダーゼ活性やトリプシン様酵素活性が高い人は、タンパク質分解が活発で、口臭リスクが高まることもわかっています。
このタイプの唾液の人への対策
①口臭対策は、別のコンテンツでもご紹介していますが、まず大切なのは舌苔のケアです。
VSC産生の70〜90%は、舌背部、つまり舌の表面の細菌叢が担っていることが研究で示されています。舌ブラシや舌クリーナーを用いた1日1回の舌清掃は、口臭対策の中でもエビデンスの高い介入の一つとされています。
②次に、唾液分泌の促進です。食事の際によく噛むこと、つまり咀嚼刺激が有効です。梅干しやレモンなどの酸味による唾液分泌刺激も役立ちます。
こまめな水分補給も大切です。その際には、カテキンなどの成分が入っている緑茶などが有効です。糖が入っているスポーツドリンクは避けましょう。
③歯磨きのときに使う歯磨剤や洗口剤には、亜鉛を含むものが有効です。亜鉛イオン(Zn²⁺)はVSCの硫黄と結合して揮発性を下げる、いわば「臭いの封じ込め」効果があります。
クエン酸亜鉛配合の歯磨剤としては、ライオンのNONIO(ノニオ)シリーズ、システマ ハグキプラス、サンスターのGUM(ガム)歯周プロケア、シュミテクトのコンプリートワンEXなどがあります。
洗口液には、菌を殺すタイプと臭いを消すタイプがあります。亜鉛は臭いそのものに働く成分なので、朝の口臭には特に有効です。具体的な製品としては、リステリン トータルケアやセラブレスなどがあります。
④プロバイオティクスなどの善玉菌サプリメントを服用し、口腔マイクロバイオームの正常化を助ける方法もあります。口臭の動画で、いくつか善玉菌タブレットをご紹介しています。詳しく知りたい方は、そちらもご覧ください。
具体的な製品名としては、ゼンダマンプロ、オーラティクスベリースマイル、ロイテリ菌ロゼンジタブレットなどがあります。
⑤忘れてはならないのが、鼻呼吸の習慣化です。口呼吸は唾液を乾燥させ、自浄作用を大きく低下させます。睡眠時に無意識に口が開きにくくなるテープなどを、寝る前に貼って寝るのも有効です。
【第6章 複合タイプ ②+④──最も危険な組み合わせ──】
「歯周病菌親和型 × 口臭産生型」
この組み合わせは、複合タイプの中で最も相互増悪が起きやすく、臨床的にも注意が必要な唾液タイプです。
複合タイプの唾液かどうかのチェックリスト
✅ 歯ぐきから血が出て、さらに強い口臭がある
✅ 口臭がいつも同じ場所、特に奥歯付近から感じられる
✅ 歯周ポケットが4mm以上と言われたことがある
✅ フロスをすると糸が臭う
✅ 目に見える歯石になっていないため、汚れた状態を把握しづらい。そのため本人の自覚も乏しく、クリーニングへの意欲が低くなり、対応が遅れがちになることが多い
なぜこのタイプの唾液が「最も危険」なのか?
歯周病の主要原因菌であるPg菌、Porphyromonas gingivalisは、VSC(揮発性硫黄化合物)の主要産生菌でもあります。つまり、歯周病菌が繁殖することは、口臭物質の工場が増えることでもあります。
さらに深刻なのは、次の悪循環です。
歯周ポケット内の嫌気環境
↓
Pg菌・T. denticolaなどが増殖
↓
タンパク質(コラーゲン・ムチン)分解酵素を放出
↓
含硫アミノ酸が遊離 → VSC大量産生 → 口臭悪化
↓
VSCそのものが歯周組織の上皮バリアを破壊
↓
歯周ポケットがさらに深くなる → 嫌気環境が強化
↓
最初に戻り、さらにポケットが深くなり続け、歯周病が進行する
特にメチルメルカプタン(CH₃SH)は、硫化水素の約10倍の毒性を歯周組織に与えることがin vitro研究で示されています。これは、歯周病と口臭が単なる併発ではなく、病態として一体化していることを意味します。
このタイプの唾液の方への対策
このタイプの唾液の方は、通常の口腔ケアだけでは不十分です。セルフケアだけで管理できる限界を超えている可能性があります。専門家による包括的な口腔評価を受け、そのうえで治療にしっかり取り組むことを強くおすすめします。
- 歯科医院でのスケーリング・レーザーSRPによる、歯肉縁下歯石とバイオフィルムの徹底除去

- 歯周ポケットが4mm以上に深くなった部分に棲みついた嫌気性細菌を、ブルーラジカル殺菌で除菌する
- 歯周病ハイリスクのため、ホームケア用の口腔ケアグッズには、強力医療用としてクロルヘキシジンの成分が入っているもの、具体的にはコンクールなどをメインに使うことをおすすめします。
- 塩化セチルピリジニウム(CPC)やイソプロピルメチルフェノール(IPMP)などの成分が入った歯磨剤や洗口剤も併用し、歯周ポケットに意識的に行き渡らせる
- その後は、1〜2か月ごとに自費で行う戦略的な予防クリーニングを受ける。あわせて、バイオフィルムの足場となる汚れを付きにくくするために、ホワイトニングも同時に受け続けると予防効果が持続しやすくなります。
今日のまとめです
- タイプ①「歯垢形成型」→ ムチン・免疫力が鍵。糖質管理とフッ素、キシリトールの活用を。
- タイプ②「歯周病菌親和型」→ 嫌気環境をしっかり破壊する。CPCとIPMPが入っている歯磨剤を使い、歯間ケア、全身管理、ストレス管理を行いましょう。ピル使用中の女性などは、トラネキサム酸、ビタミンE(酢酸トコフェロール)が入っている歯磨剤で出血を抑え、クラプロックスの歯ブラシで丁寧に磨くことが大切です。
- タイプ③「歯石形成型」→ 石灰化を防ぐ。プラークを形成させないタイミングが重要で、電動音波ブラシもおすすめです。
- タイプ④「口臭産生型」→ VSCを制御する。舌ケア、唾液量アップ、保湿に加え、亜鉛などが入っている洗口剤や歯磨剤を使う。
- 複合タイプ → まずは医療機関で、レーザーSRPによる歯肉縁下歯石の除去やブルーラジカル殺菌などの治療を受ける。その後、クロルヘキシジン成分が入っている歯磨剤や洗口剤を使う。
大切なことは、口腔ケアの方法に「万人共通の正解」はないということです。あなたの唾液の特性を理解してこそ、はじめてあなたに合ったケアを設計できます。

西国分寺レガデンタルクリニック院長・歯科医師。歯の治療は、一般的な内科治療などと少し違いがあります。それは「同じ箇所の治療でも、やり方がたくさんある」ということ。例えば、1つの虫歯を治すだけでも「治療方法」「使う材料」「制作方法」がたくさんあります。選択を誤ると、思わぬ苦労や想像していなかった悩みを抱えてしまうことも、少なくありません。
当院では、みなさまに安心と満足の生活を得て頂くことを目標に、皆様の立場に立った治療を心がけています。お気軽にお越し下さい。